2016 Fiscal Year Research-status Report
化学兵器剤の高感度かつ網羅的な測定-量子化学計算による分光学的性質の理論的予測-
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15K01227
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
今坂 智子 九州大学, 芸術工学研究院, 講師 (90193721)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 危機管理 / 化学兵器剤検知 |
Outline of Annual Research Achievements |
サリン、ソマン、VX などは化学兵器禁止条約(CWC)において最も危険な神経剤であると報告されている。2013年や今年4月にもシリア内戦において化学兵器剤が使用され、多数の犠牲者を出した。神経剤、催吐剤、催涙剤のような化学兵器使用の断定や種類の特定を短時間で正確に検知する方法の開発が求められている。本研究では量子化学計算による理論研究と超短パルスレーザーイオン化質量分析の技術を基に、高感度で網羅的な化学兵器剤やその代謝物の同定を行うことを目的とする。
1.化学兵器剤の励起エネルギーとイオン化エネルギーの計算・・励起、イオン化に最適なレーザー波長を予測するため、サリンやサリンの合成副産物、代謝物およびタブンなどのイオンの吸収スペクトルを予測してみた。基底状態の最適化構造や振動数を密度汎関数法で求め、多配置性を導入した時間依存法を採用して、イオンでの吸収スペクトルを求めた。すでに求めていた基底状態での吸収スペクトルと比較検討を行い、試料分子を測定するのに最適なレーザー波長の予測や科学的性質の考察を行った。
2.超短パルスレーザーを用いる質量分析・・神経ガス代謝物を測定するため適切な標識試薬を探索したところ、ブロモメチルナフタレンは神経ガス代謝物のOH基と効率よく反応し、深紫外フェムト秒レーザーを用いて効率よくイオン化できる可能性があることがわかった。そこで、この試薬を用いて数種の神経ガス代謝物を標識し、質量スペクトルを測定した。その結果、神経ガス代謝物を効率よくイオン化でき、分子イオンを明瞭に観測できることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
化学兵器剤である神経剤及びその代謝物質の励起エネルギーとイオン化エネルギーの理論計算による予測については、現在までのところ、量子化学計算プログラムを採用して、予備計算の後、九州大学情報基盤研究開発センターのスーパーコンピューターに接続して、密度汎関数レベルでの基底状態、励起状態、イオン分子のエネルギー、基底状態とイオンの吸収スペクトルを求め、試料分子をイオン化するために用いるレーザー波長を予測した。 化学兵器剤のガスクロマトグラフ/多光子イオン化質量分析については、連携研究者や研究協力者が担当した。従来用いられているペンタフルオロベンジルブロミドにより修飾する方法は、標識効率やイオン化効率が低く、十分な分析感度が得られなかった。また、分子イオンがほとんど観測されず、信頼性に面で問題があった。これに対して新規に見出したブロモメチルナフタレンは、標識効率が高く副生成物がほとんど生成しなかった。また、分子イオンが強く観測され、微量分析に極めて有効であることがわかった。
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Strategy for Future Research Activity |
神経剤やその代謝物の誘導体などの励起エネルギーやイオン化エネルギー、吸収スペクトルに関する計算について、進めていく予定であり、紫外域に吸収帯をもつ誘導体化試薬を用いて標識し、紫外フェムト秒レーザー、さらに安価な紫外ナノ秒レーザーを用いてイオン化する条件を理論計算する。 ブロモメチルナフタレンは新規な標識試薬であるため、神経ガス代謝物を標識のための最適反応条件が明らかではない。そこで反応温度と時間、標識試薬の濃度、触媒の種類と濃度などについて、最適な反応条件を調べる。一方、実試料への応用について検討するため、環境水や尿中に含まれる神経ガス代謝物を分析する。また、このために必要な前処理方法について研究する。
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Causes of Carryover |
「次年度使用額(B-A)」欄が「0」より大きい理由としては、物品費やその他の経費が最初に見積もられた額より少なかったことなどが挙げられる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
翌年度分の使用計画としては、当初予定していたものに加え、実験用品やデータ処理、成果発表、アウトリーチ活動などをより一層充実させる費用に充てたい。
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Research Products
(13 results)