2015 Fiscal Year Research-status Report
減災のための人間及びその集団の動作を精密に考慮できる避難シミュレーション法の確立
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15K01233
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
柿崎 隆夫 日本大学, 工学部, 教授 (10586556)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
遠藤 央 日本大学, 工学部, 助教 (50547825)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | シミュレーション / 避難 / デジタルヒューマン / 津波 / 人間モデル / マルチエージェント / プラットフォーム / 3D |
Outline of Annual Research Achievements |
研究計画に基づき減災のために必須となるシミュレーション法の開発および実験検証した. 津波からの避難は平地から津波高さを上回る高所部へ避難することを想定する.そこでシミュレーションではまず実績ある校舎モデルを基に,グラウンドに整列した状態を初期位置とし,建物2階へ約600名が避難する場合の避難を検討した.ここで複数ゲートのうち各自最寄りのゲートを選択すると特定経路に避難者が遍在し渋滞が発生,この結果該当ゲートでの避難時間増加が明らかとなった.ついでこれを修正し,全ゲートへの避難者を平準した結果,全体の避難時間を短縮できることを示した.各自を最寄りのゲートから避難させることは,結果として各階段での避難終了時間に偏りが生じさせる.「最寄りの」という単純な発想でなく避難集団を適正な規模に分散,つまり平準化が避難時間の減少に有効であることは重要な結果である. シミュレーションを補強するための実験として,まず実際の津波避難タワーを現地調査し,これを模して学内に4階までの階段を構成する実験フィールドを設定した.実験では屋外待機場所からタワーへの二通りに分岐する経路を設定し,避難時間に及ぼす集団の分岐有無の影響を他者搬送の有無など複数パターンにおいて検証した.平地歩行では分岐することで集団が疎になり歩行しやすく避難時間は減少する一方,2つの集団が合流地点で集団が密になり渋滞が発生することが明らかとなった.また,他者搬送がある場合,階段では平地に比して約半分の速度になること,これは主に階段に至る平地歩行での搬送負荷およびこれに伴う搬送者交代が要因であることが明らかとなった. 上記の成果,集団平準化の効果,および実験による平準化の検証,そして搬送時の負荷による避難時間の増加などは減災への大きな知見となった.以上のように本研究の意義は極めて大であり,今後より一層発展させていくべきものと考える.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究では今年度は(1)現在地から平坦地を経て津波避難タワーまで到達する避難,および(2)津波避難タワーへ上り,所定の高さまで到達する避難という二つの部分から構成される避難モデルを対象とした. このうち(1)では避難の順番および速度,避難経路を選択,高齢者や負傷者などの被搬送者の有無,ならびにその搬送方法などの問題を考慮する必要がある.また(2)では被搬送者を含む多数の避難者が輻輳最小にて狭い階段を安全かつ効率良く上る課題があり,いずれも津波襲来の時間を考慮しながら最適な時空間避難を実現しなければならない. 今年度は津波避難タワーの調査により周辺まで含む3次元環境モデルの基本パラメータを把握するとともに,平地からタワー終端まで連続した単一集団による避難シミュレーションモデルを明らかにした.さらに避難タワーの周囲それぞれのエリアに避難者の集団が存在することから,避難指示が出ると各集団が固有の時間感覚で最も望ましいと考える空間経路にしたがってタワーへの避難を目指すが,複数の避難集団がほぼ同時に到達すると入口や階段では輻輳が生じる.これについても平準化および実験での検証により,分岐の効果と合流時の渋滞との関係,さらにシミュレーションでは検証が難しい搬送負荷の影響等について実験で明らかにすることができた.以上のことから,研究の目的の達成度としては,当初計画以上の進捗と判断している.
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の今後の推進方策: シミュレーションについて,今後は原子力発電施設等における災害を想定した被曝避難シミュレーションの開発を想定している.原子力発電所の事故あるいは廃炉作業に伴う放射能被曝はたとえ低線量であっても十分に想定し可能な限り防止すべき事象にも関わらず,我が国はもちろん海外でも十分な研究はなされていない.だからこそ研究することの意義と社会的重要性は大きいと言えるが,研究を進める上での公開情報が十分ではなく,どこまで現実的な形で研究を進めることができるか否かが大きな課題として浮上している. 課題解決へのアプローチ: これについては,まずは関連する施設について可能な部分は徹底的な調査を実施する.加えて,福島県では電力会社との協定もあり,その中で避難に関する意見交換の場を積極的に開拓していくこととする.さらに海外では我が国に比して情報公開が進んでいることもありことから,情報を精査し我が国へ適用できる部分を抽出し,シミュレーションおよび実験条件設定へ反映させていく.
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Causes of Carryover |
国際会議だけでなく,国内で関連する研究者との情報交換のための会議や研究会も希望していたが,公務等と重なりそのすべてを実現することは不可能であった.加えて連携する研究者を招聘し,実験上の詳細なプロセス点検も実施する予定であったが,関係者の業務上の都合により希望した分を実施できなかった.このほか,実験における費用支出を想定したいたもののうち,公費で購入するには難しい部分があり,断念した.以上の事由により結果として次年度使用額が生じることとなった.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
まず連携研究者の招聘を進めることとする.また,次の実験にはより大規模なセットアップが必要となることから,そのための機器,消耗品などの購入にあてることとしたい.さらに,国内では入手が難しい文献について必要な措置を検討し,研究に役立てることができるような入手措置を講ずることとしたい.以上により残額を遺漏なく活用することとしたい.
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Research Products
(4 results)