2016 Fiscal Year Research-status Report
減災のための人間及びその集団の動作を精密に考慮できる避難シミュレーション法の確立
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15K01233
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
柿崎 隆夫 日本大学, 工学部, 教授 (10586556)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
遠藤 央 日本大学, 工学部, 助教 (50547825)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | シミュレーション / 避難 / デジタルヒューマン / 原子力発電所 / 人間モデル / 廃炉 / プラットフォーム / 3次元 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、原発関連災害において不可避な被曝へ及ぼす避難者行動の影響を定量的に検証する手法を開発することで,大規模かつ複合的要因による災害における避難者の時空間行動予測にも広くかつ簡便に提供可能なシミュレーション技術を確立することにある.この技術は今後予定されるきわめて困難な廃炉作業において仮に放射能漏れなどの事故があった場合に作業者が安全に避難するための方策を精密に検討するためにも極めて重要な技術である. 今年度は計画に沿って、原発施設および廃炉作業について実地調査し、それに基づき避難シミュレーションのための3D構造モデルと避難ルールを実験用に策定した.ついでモデルに基づきKDH(精密デジタルヒューマン)を用いた3D避難シミュレーションを開発した.シミュレーションとそれに対応する避難者として80名の被験者を配置した.避難経路については避難者が作業する各区画からの出口最短距離を選択するように設定した.避難時間に関する実験とシミュレーションの差異は10%未満であった.いずれの場合も区画間のゲートにおける滞留の様子は観察された.以上のように、区画モデルとKDHを用い、歩行速度を基本パラメータとすることで、高精度に避難時間を推定可能という重要な成果を得た. 避難時の被曝量推定については避難区画のそれぞれに線源からの放射線強度を設定し、避難完了までの避難者被曝量は避難経路上で被曝した線量の積分値とした.この方法では任意に配置した作業者とみなしたKDHが被曝しながら避難を完了した後に再度元いた区画へ配置し、避難経路と被曝量との関係を簡単に判定できる.開発したシミュレーションによれば、今後廃炉計画が具体化する中で、特定作業区画における作業者が施設外へ避難する際の避難時間および被曝量を高精度に推定できることから、その意義はきわめて大である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では今年度は、(1)想定される廃炉作業における放射能漏れなどをできるだけ現実的にシミュレーションできるモデルを構築すること、そしてそのシミュレーション条件を定めること、(2)構築したモデルを用いて、原子炉関連建屋内の特定区画にいる廃炉作業者が事故の際に避難するための時間およびその場合に不可避的に受ける被曝量をできるだけ平易に推計できることを示す、このために実験検証を実施するという点を重点とした. このうち(1)では実際の原子力発電関連施設を実地見学し、主な建屋構造を調査するとともに作業者から具体的な避難訓練の模様をヒアリングすることで、研究に必要なモデルの構成および実際的な避難ルールを定めた.これに基づき作成した作業空間モデルは3次元に配置された立方区画から構成され、各区画は遮蔽壁により仕切られ作業者は遮蔽ドアを通じて面内移動し、上下移動は指定の階段を利用する.施設内の作業者およびグループ担当、さらに緊急時の避難口およびそこへ至る一つ以上指定経路は予め与えられるとした. (2)については、まず避難経路上での被曝量を想定するため任意位置に線源を仮定し、当該区域の線量を線源からの距離二乗に反比例するとして設定した.ついで避難者のいる作業区画から所定の避難口までの避難方向ベクトルを定めた.避難者は現在区画線量に比例して線量が減少する方向のベクトルを選択し次の区画へ進み、これを繰り返して規定の指避難路に遭遇したら規定のルールに従うとした.実験検証は日本大学工学部の講堂体育館内に仮設し、実験フィールドの構成には東京電力公開資料および茨城県東海村JRR-1等の現地調査結果を参考にした. 以上のように、開発したシミュレーションによれば避難者の避難時間や被曝量を推計できること、実験によりその妥当性が検証できたことから、研究の目的の達成度としては当初計画以上の進捗と判断している.
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Strategy for Future Research Activity |
シミュレーションについて、これまで津波を想定した避難、さらに原発廃炉事故を想定し課題を追求してきた.津波避難タワーについては大規模な実験も実施できたが、原発廃炉事故については今回以上の規模での実験は難しい.このためまずはシミュレーションで、原子炉建屋、タービン建屋といったより実際に近い構造のモデルを対象にシミュレーションし、実際想定し得る様々なパタンを検討していくことが必要と考えている.福島第一原発事故を経験した我が国でこの研究を推進することの意義と社会的重要性は大きい.ただし未だ研究を進める上での公開情報が十分ではなく、どこまで現実的な形で研究を進めることができるか否かが大きな課題として浮上している. 上記課題解決へのアプローチはなかなか難しい.このような中でJAEAが福島県楢葉町に廃炉技術全般の開発を支援する遠隔技術開発センタを整備していること、報告者もその活用に関わっていることから、本研究との接点を探り、具体的には施設内VRシステムとの連携などを検討し、課題解決に近づけたいと考えている.
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Research Products
(3 results)