2016 Fiscal Year Research-status Report
着火エネルギー及び環境湿度が可燃性ガスのフィジカルハザードに及ぼす影響
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15K01235
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Research Institution | Tokyo University of Science, Suwa |
Principal Investigator |
今村 友彦 諏訪東京理科大学, 工学部, 准教授 (50450664)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 気相燃焼 / 可燃性ガス / 着火エネルギー / 環境湿度 / フィジカルハザード |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、燃焼範囲や最小着火エネルギーといった着火可能性につながるデータと、燃焼速度、爆風圧といった危害度評価につながるデータを、様々な環境条件の下で取得し、可燃性ガス燃焼・爆発時の物理的危害度(フィジカルハザード)に及ぼす環境因子の影響を明らかにすることを目的としている。特に投入エネルギーと環境湿度の影響に着目して、①投入エネルギーが着火可能性及び燃焼威力に及ぼす影響,②環境湿度が着火可能性及び燃焼威力に及ぼす影響の2点を明らかにすることに注目している。平成28年度は、平成27年度に引き続き実験データの蓄積に主眼を置いて研究を実施した。①については、投入エネルギーに密接に関連する、着火時の電極間隔について、針電極を用いて電極間隔をさまざまに変化させた実験を実施し、針電極では一般に言われている消炎距離よりも1桁小さい間隔で着火できることを明らかにした。湿度の影響については、水分添加時と乾燥時の燃焼実験結果を整理し、燃料に対して酸素濃度が一定であれば、水分添加により特に化学両論組成よりも燃料過濃の混合気組成において火炎伝播速度が増大することを実験的に見出した。これにつき、化学反応の面から裏付けを与えるため、無償提供されている化学平衡計算ソフトを使用して反応解析を行い、水分添加時に、完全燃焼により生じるCO2量が増大し、不完全燃焼により生じるCO量が減少することをつきとめた。したがって、水分添加時に火炎伝播速度が増大する現象は、水分が燃焼反応時にOHラジカルを生じ、これが未反応の燃料と反応することにより燃焼が促進され、火炎伝播速度が増大するとの仮説を導いた。これらの成果を、平成29年度中に開催される国際会議(Asia-Pacific Symposium on Safety 2017)にて口頭発表するべく論文作成準備中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
①投入エネルギーが着火可能性及び燃焼威力に及ぼす影響:ガラス製フランジ付きの電極を用いた着火実験において、フランジ板を火炎が通り抜けることができる最小の間隔を消炎距離と呼び、リスク管理指標として用いられているが、熱損失の少ない針電極を用いた場合にはその間隔は消炎距離よりも小さくなると推測されるため、リスク管理の面ではより厳しい評価を与えることができる。そこで、タングステン製,直径2 mmの針電極(先端角30°)を用い、電極間隔を0.05~0.4 mmに変化させて着火実験を行った。その結果、針電極により着火できる最小の電極間隔は、LPG‐空気混合気に対してはおよそ0.05~0.10 mmとなり、消炎直径の約1/20程度の間隔でも着火できること、水分添加により最小電極間隔が大きくなること、電極間隔すなわち投入エネルギーを変化させても、火炎伝播速度・爆風圧・爆発強度指数(KG値)等の燃焼威力パラメータに及ぼす影響はほとんどないこと、を明らかにした。 ②環境湿度が着火可能性及び燃焼威力に及ぼす影響:小型(1.36L)密閉容器内で着火実験を行った結果、LPG‐空気混合気については、化学量論組成よりも希薄な組成では水分の冷却効果により若干水分添加時のほうが小さな火炎伝播速度を示すが、過濃側では水分の影響はほとんど認められなかった。バランスガスを空気として燃料濃度を変化させると、可燃性混合気中の酸素濃度が変化するため、この影響を取り除くために酸素濃度を21vol%に固定して、窒素をバランスガスとした組成の混合気で同様の実験を行うと、量論組成より希薄側では火炎伝播速度はほとんど変化なく、過濃側で水分添加時のほうが有意に大きな火炎伝播速度を示した。これは、燃焼反応時に水分をもとにしてOHラジカルが生成され、これが未燃のLPGと反応するためと考えられた。これを化学平衡計算からも立証した。
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Strategy for Future Research Activity |
①投入エネルギーが着火可能性及び燃焼威力に及ぼす影響:平成28年度の研究では、針電極の場合に着火できる最小の電極間隔を求めることに注力したので、放電に用いる高圧電源は、十分なエネルギーを与えられる交流変圧器(ネオントランス)を用いている。そのため、最小着火エネルギーを求める観点からは十分な実験とはなっていない。そこで平成29年度は、静電気レベルのエネルギーの放電を発生させることのできる直流電源を用いて、28年度に求めた電極間隔において着火実験を行い、針電極使用時の最小着火エネルギーを求めることにより、LPGの着火特性を明らかにする。 ②環境湿度が着火可能性及び燃焼威力に及ぼす影響:平成28年度の研究では、水分の有無が火炎伝播速度に及ぼす影響に特化して研究を進めた。平成29年度は、酸素濃度を21vol%に固定して、バランスガスとする窒素の水分含有量(バブラーを通過する窒素の分圧)を様々に変化させることにより、湿度をパラメータとした着火実験を行う。これにより、湿度が燃焼挙動に及ぼす影響を明らかにする。 ③可燃性ガスのフィジカルハザードデータベースの構築:平成28年度までの研究で構築したフィジカルハザード評価手法に基づいて、今後、新エネルギーとしての活用が期待されるさまざまなガス(水素,メタン,ジメチルエーテル)及びその混合ガスについて同様の実験を行い、投入エネルギー及び湿度をパラメータとした、フィジカルハザードデータベースを構築する。
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