2015 Fiscal Year Research-status Report
船舶交通管制業務における2船間の接近に伴う警告時機に関する研究
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15K01243
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Research Institution | Japan Coast Guard Academy (Center for Research in International Marine Policy) |
Principal Investigator |
西村 知久 海上保安大学校(国際海洋政策研究センター), その他部局等, 准教授 (30559240)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中山 喜之 海上保安大学校(国際海洋政策研究センター), その他部局等, 講師 (70747013)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 船舶交通管制 / 避航操船 / 管制航路 / 行動特性 / 海上交通センター / VTS / 海上交通安全法 / 無線通信 |
Outline of Annual Research Achievements |
2隻の船舶が互いに異常接近するとき、管制官は、(a)船舶操縦性能から推定される避航に要する時間、(b)管制官の警告等を受けてから操船者がその状況を認識するのに要する時間、(c)管制官が無線通信により警告等を実施するのに要する時間を推定し、衝突予想時刻から(a)、(b)および(c)に要する時間を遡って警告を開始しなければならない。 (a)については、直交する管制航路(具体的には、備讃瀬戸北航路と水島航路の交差部、ならびに、備讃瀬戸南航路と水島航路の交差部)について、野本の運動モデル(KTモデル)を用い算出した。長さ100m程度の貨物船舶の場合では、衝突の約1分前から、長さ150m程度の貨物船舶の場合では、衝突の約2分前から衝突回避のための操舵を開始しなければならないことが明らかになった。 (b)については、実海域において計測することが困難であることから、操船シミュレータ訓練において、レーダ担当者が操船者に危険な船舶について警告をした後、操船者が当該船舶に気付くまでの時間を計測することによって代替値とした。操船者は、警告を受けてから1分以内には当該船舶の運動状態を把握できることが明らかになった。 (c)については、運用管制官のための管制シミュレータ訓練において、警告にかかる時間を計測した。警告には約30秒を要することが明らかになった。ただし、この時間には、呼び出しや通信チャンネルへの切り替えに要する時間は含まれていない。 以上の時間を考慮すると、直交する管制航路においては、長さ100m程度の船舶の場合は、衝突予想時刻の約3分前までに、長さ150m程度の船舶の場合は、衝突予想時刻の約4分前までに警告を開始しなければならないことが明らかになった。なお、この値は、現行の運用管制業務に照らし合わせても概ね妥当な結果であり、経験的に運用されて来た内容が理論によって裏付けられたことを意味するもである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、(a)船舶操縦性能から推定される避航に要する時間の算出、(b)管制官の警告等を受けてから操船者がその状況を認識するのに要する時間の計測のための実験準備を実施することとしていた。 (a)については、当初の計画通り、2船間の任意の接近角度および速力に応じた数値計算プログラムを完成させた。当該数値計算プログラムは、今後実施予定の管制航路における船舶通航実態調査の結果を入力することによって、実海域における避航に要する時間の算出が可能になっている。 (b)については、平成28年度に予定していたビジュアル操船シミュレータによる実験準備を平成27年度の早期に完了することができたことから、当該実験を平成27年度に前倒しして実施することができた。このことから、当初の計画よりも早い時期において、操船者の見張り行動に関するデータを解析することができている。 その他、「管制官が無線通信により警告等を実施するのに要する時間の計測」については、平成28年度以降に海上交通センターに赴き、管制現場において、当該時間の計測を予定しているが、平成27年度に研究協力機関において、船舶交通管制シミュレータを用いた管制官訓練が実施されたことから、当該訓練データを用いて、必要なデータの一部ではあるが、管制官が警告実施に要する時間の計測を実施することができた。 以上のことから、当初の計画よりも先行して研究が進展しているものと思料する。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、(a)船舶操縦性能から推定される避航に要する時間、(b)管制官の警告等を受けてから操船者がその状況を認識するのに要する時間、(c)管制官が無線通信により警告等を実施するのに要する時間を推定し、2隻の船舶が異常に接近する際に、管制官が警告を開始しなければならない時機を理論的に推定しようとするものである。 (a)については、管制航路における船舶の接近状況を解析することにより、実海域の状況に近づけることが可能となる。このためには、船舶交通流データを入手し、解析する必要がある。当該データについては、研究協力機関である、各海上交通センターから昨年度に入手済みであり、また、昨年度末に当該データを解析するための装置を購入している。今後は、当該データおよび当該装置を用いて、管制航路における船舶の接近状況を解析する。また、当該装置では解析ができない事項については、管制現場に赴き解析を行う。さらに、当該解析結果に基づいて数値計算を行い、現実の海域に即した避航に要する時間を推定することとしている。 (b)については、平成27年度に計測および解析を完了している。 (c)については、①呼び出しに要する時間、②通信チャンネルに変更する時間、③警告に要する時間の3つの要素からなっており、平成27年度までに、③に関する計測および解析が完了している。今後は、残りの2つの要素について、研究協力機関である各海上交通センターに赴き、実際の管制現場において、それぞれに要する時間を計測する。 衝突予想時刻から上述の各時間だけ遡った時刻が、理論的に求められた警告を開始しなければならない時機になるが、当該時機が、実際の管制官の経験的なものからどの程度一致あるいはかけ離れているのかについても調査する。さらに、過去に発生した異常接近状況を操船シミュレータで再現し、管制官の警告内容が妥当であったのかどうかについても調査を予定している。
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Causes of Carryover |
研究計画書申請時においては、海上交通センターで記録されたAISおよびレーダ映像等のデータに基づき、各センターが管轄する管制海域における船舶交通流を解析するための「再生データ合成装置」(見積本体価格:3,500千円)を購入する計画であった。しかしながら、予算の都合から、機能および対象海域について一部を見直した(割愛した)仕様書を作成し、「統合型海域管制装置」を購入することとした。当該装置の見積価格は、2,700千円(税込み)であったが、入札の結果、2,484千円(税込み)となったため、次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
理由において示したように、当初計画していた機能を一部割愛した装置を購入せざるを得なかったため、海上交通センターに赴き、管制現場において、当該割愛された機能を補完するための計測を実施する必要が生じている。次年度使用額については、主として、この出張旅費に使用することを計画している。
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