2015 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K01275
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
渡邉 惠 東京大学, 薬学研究科(研究院), 研究員 (80302610)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 導電性高分子 / 電気生理学 / 脳波 / シナプス電位 |
Outline of Annual Research Achievements |
ポリエチレンジオキシチオフェンにp-トルエンスルホン酸をドープした導電性高分子(PEDOT-pTS)をシルク糸にコートして,柔らかいシルク製電極を作成した。作成した電極は約2 kΩ/cmの抵抗を示した。基材として,セリシンを完全に除いた精練糸を用いた場合でも,セリシンを部分的に残した硬質糸を用いた場合でも,ほぼ同様の電気特性が得られた。電解質溶液中でインピーダンスを測定した結果,比較的平坦な周波数特性が得られた。このことから,この電極は脳波のような遅い電気活動の測定に特に適していると考えられた。またシルク製電極を複数並べた電極アレイも作成した。次にこの電極をニワトリ胚の脳表面に設置して,脳の活動測定と刺激を試みた。脳表面に刺激用と記録用の各1対のシルク製電極を設置し,刺激電極に通電することにより刺激が可能かどうかを検討した。その結果,通電によりシナプス電位を誘発することが可能であることが示された。また硬質糸を用いて作成した電極では,脳に電極を刺入することが可能であった。以上の結果から,シルク製電極を脳の電気活動の測定と刺激に用いることが可能であることが明らかになった。電極の作成と性能の基本的な性能の評価は東北大学において行った。さらに,孵化の1~2日前のニワトリ胚の脳においては,約60 Hzの顕著なガンマ帯域活動が生じることが明らかになった。ガンマ帯域活動は自発性に生じるほか,光刺激によっても誘発された。複数の点から同時測定した結果,ガンマ帯域活動が空間的に広い範囲で同期していることが示された。発生の早い段階におけるガンマ帯域活動の出現は,ニワトリの認知機能の早い発達と関連している可能性が考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り,シルク糸を基材とする柔らかい電極を脳の活動測定および刺激に用いることができた。シルク製電極は柔らかいため,脳に刺入することが困難と考えられたが,硬質糸を用いることでこの問題も解決された。さらにシルク製電極を複数配置した電極アレイを作成して,多点測定を行うことができた。このように平成27年度に予定していた課題はほぼ達成することができた。さらにニワトリ胚の脳活動に関して,従来報告されていなかった新しい現象を見出した。これを詳細に解析することで,生物学的にも意義のある成果を得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度にシルク製電極の評価を十分行うことができたため,平成28年度は,脳深部刺激による学習機能への影響を重点的に調べることを目標とする。そのために新たに連携研究者を加えて,マウスの瞬目反射条件付けを用いる実験系の開発をに着手する。従来,マウスの瞬目反射条件付けは,瞼に設置した電極を介した電気刺激(無条件刺激)と,瞼の筋電位の測定(条件反応)を用いて行われるのが普通であった。しかしより侵襲性の低い方法を用いることが望ましいため,空気の吹きつけを無条件刺激とし,瞼の反応を高速ビデオカメラで撮影して計測する方法を用いることを計画している。データ解析のために,独自の画像解析プログラムの開発も行う。安定した条件付けが可能になったら,深部核の刺激を行い,学習に影響が生じるかどうかを検討することとする。
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Causes of Carryover |
平成27年度には,脳内への電極設置部位等の組織学的解析を行うために,切片作成装置の購入を計画した。しかしニワトリ胚における脳活動測定において,予想していなかった興味深い現象が見出され,これについて重点的に解析を進める必要が出たため,組織学的解析は平成28年度に行うことにした。従って,切片作成装置の購入費用に相当する金額を次年度に使用することになった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
切片作成装置を早期に購入し,平成28年度の研究において使用する。
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