2015 Fiscal Year Research-status Report
幹細胞の増殖とSpheroid形成に適した基質特性の解明とその制御法の開発
Project/Area Number |
15K01318
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Research Institution | Tokyo University of Pharmacy and Life Science |
Principal Investigator |
保住 建太郎 東京薬科大学, 薬学部, 講師 (10453804)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 細胞外マトリックス / ペプチド / ラミニン / 幹細胞 / スフェロイド / キトサン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究計画では幹細胞の培養・増殖に適した細胞外環境の基質特性を解明し、幹細胞の未分化維持・増殖を促進する細胞外マトリックス由来活性ペプチド-キトサンマトリックスを開発することを目的とする。これまでタンパク質レベルにて検討されてきた細胞外マトリックス(ECM)を利用した幹細胞用培養基質を、数種の受容体特異的な細胞接着性ペプチドを混合・最適化し、ECMの機能を模倣した幹細胞用培養基質を開発する。ECM由来細胞接着ペプチドとしては、インテグリンαvβ3やインテグリンα5β1と結合するフィブロネクチン由来のRGD含有ペプチドがある。一方でフィブロネクチンは、分子内に多数の活性部位を有する多機能性タンパク質であり、インテグリンαvβ3やインテグリンα4β1やシンデカンなど10種類以上の細胞膜レセプターと結合する。このことから、RGDだけではフィブロネクチンの機能を模倣した機能性材料の開発は難しく、RGDのみでなくフィブロネクチン中に存在する他の活性配列も併せて用いることで、より機能的な人工細胞培養基材となることが期待できる。最近、フィブロネクチン中のPro-Arg-Ala-Arg-Ile(PRARI)配列がインテグリンα4β1との結合に関与する配列として新たに同定された。H27年度ではPRARIを含む合成ペプチドの生物活性を評価し、得られた活性配列を高分子多糖(キトサン)に固定化したPRARI-キトサンマトリックスを開発した。さらにインテグリンαvβ3と結合するRGD含有ペプチドとインテグリンα4β1と結合するPRARI含有ペプチドを同時に固定化した混合ペプチド-キトサンマトリックスを作製した。フィブロネクチンの生物活性を模倣した培養基質材料の開発をめざし、様々な組み合わせを精査したところ、フィブロネクチンの生物活性に近い機能を持つ混合ペプチド-キトサンマトリックスの開発に成功した。本研究成果に関して3回の学会発表を行うと共に、現在、論文を投稿中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究開始初年度であるH27年度は、受容体特異的なECM由来ペプチドを固定化したペプチドキトサンマトリックスを用いて、マウス胎生幹細胞の細胞接着活性試験を行うとともに、新規インテグリンサブタイプ特異的結合活性を示す細胞接着ペプチドの同定、キトサンゲルの開発を行った。 マウス胎生幹細胞の細胞接着活性試験ではES細胞が多く発現している細胞表面受容体(インテグリンα6β1とα3β1)に着目し、これらと特異的に結合するペプチドを固定化したペプチド-キトサンマトリックスを中心に細胞接着活性を測定した。その結果、接着活性としてはインテグリンα6β1とα3β1と特異的に結合を示すペプチドを固定化したペプチドキトサンマトリックスが、他のペプチドを固定化した場合にくらべ比較的強く結合することが判った。一方、本研究計画では幹細胞を培養時にシングルセルまで分散させた培養を計画し、さまざまな条件検討を行ったが、シングルセルをスタートポイントした培養は難しいことが判ってきた。このことから、マウス胎生幹細胞を用いたペプチド-キトサンマトリックス上での培養は、フィーダー細胞上やマトリゲル上と同様に、ある程度の細胞凝集をともなったコロニー状での培養を行う必要があることがわかってきた。 一方、新規特異的インテグリン結合活性ペプチドの同定では、フィブロネクチン由来のインテグリンα4β1特異的ペプチドの同定に成功した。現在、本結果については論文投稿中である。こちらのペプチドを用いたマウス胎生幹細胞も開始している。 他にも、H28年度、およびH29年度の課題とし、ペプチド-キトサンマトリックスの将来的な応用に向けたキトサンゲルの開発に着手した。キトサンゲルの開発に関しては、カルボン酸をリンカーとして用いるシンプルな架橋系を開発することで、ゲル化のめどがたった。現在、幹細胞培養に向けの応用化の検証、固さの最適化などをすすめている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究推進方針としては、最初に研究計画で昨年度の実施予定としていた混合ペプチドを用いた系での評価を行う。当初予定していたマウスES細胞のシングルセルをスタートとして培養する手法の開発は、コントロールとして用いるマトリゲルおよびラミニンでも細胞のバイアビリティが低いことから、ペプチド-キトサンマトリックスを用いた場合でも、開発にあたっての困難が予想される。そこで、研究期間等を総合的に考慮した上で、時間的な余裕からシングルセルからの培養は今後の課題とし、小塊状のコロニー状マウス胎生幹細胞から培養開始する方法に変更する。コロニー状のマウス胎生幹細胞は最長7日間インキュベート培養し、混合比組成候補を5種類以内に絞り込む。コントロールには市販されているラミニン組換タンパク質とマトリゲルを用いる。本ステップは本研究計画における最重要課題であり、慎重に精査していく。未分化維持の確認には7日間培養し、Oct4、Nanog、SOX2の免疫染色とQ-PCRでの評価、アルカリフォスファターゼ染色を評価項目に加え候補組成を2種類までに絞り込む。 また、安定化したキトサンマトリックスの開発として行っている架橋化キトサンの開発についてはめどが立ってきていることから、pHの変更によってSphereとしての細胞塊を得る方法の開発を開始する。ただ、マウス胎生幹細胞のコロニー培養条件の条件決定を待ってから、検討開始することは時間的にロスが多いため、比較的細胞塊を造りやすい唾液腺上皮細胞などの上皮細胞系の細胞を用いることでプレ実験を進めていく。 以上の研究推進方策のもと、他の細胞なども流用しながらフレキシブルに対応することで、本計画の遂行に向けて研究を進めていく。
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Causes of Carryover |
マウス胎生幹細胞の細胞接着活性試験ではES細胞が多く発現している細胞表面受容体(インテグリンα6β1とα3β1)に着目し、これらと特異的に結合するペプチドを固定化したペプチド-キトサンマトリックスを中心に細胞接着活性を測定した。その結果、接着活性としてはインテグリンα6β1とα3β1と特異的に結合を示すペプチドを固定化したペプチドキトサンマトリックスが、他のペプチドを固定化した場合にくらべ比較的強く結合することが判った。一方、本研究計画では幹細胞を培養時にシングルセルまで分散させた培養を計画し、さまざまな条件検討を行ったが、シングルセルをスタートポイントした培養は難しいことが判ってきた。予算の使用に関しては、ほぼ計画通りに遂行していると考えている。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
昨年度の研究計画時と比較し、約三%の予算が繰り越しとなった。研究計画全体として考えた場合、ほぼ計画通りに予算の使用をおこなっていると考えている。次年度は、計画通りに混合ペプチドを用いた幹細胞の培養を開始していく。細胞培養培地に関しては、順次購入しているために、これを本年度の繰り越し分で購入する。その他に関しては、論文投稿費なども含めて、計画通りに購入、使用していく予定である。
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Research Products
(18 results)