2016 Fiscal Year Research-status Report
脊髄損傷部に移植された嗅粘膜由来幹細胞の機能獲得の研究
Project/Area Number |
15K01378
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Research Institution | Ibaraki Prefectural University of Health Science |
Principal Investigator |
佐々木 誠一 茨城県立医療大学, 保健医療学部, 教授 (50153987)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
冨田 和秀 茨城県立医療大学, 保健医療学部, 教授 (00389793)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 脊髄 / 可塑的変化 |
Outline of Annual Research Achievements |
脊髄障害部に移植された嗅粘膜組織が機能的な役割を獲得するかどうかについての研究では、半切によって障害側の脊髄を下行する伝導路の影響が半切によって完全に除外されるかどうかについては重要である。麻酔下の動物の脊髄を頚髄のレベルで半切し3か月後の半切側で延髄呼吸中枢から呼吸ニューロンの脊髄下行性軸索が切断面で再生し、再生した軸索が切断面を超える可能性について調べた。延髄腹側に位置する呼吸ニューロン群の中で吸息性ニューロンと尾側延髄呼息性ニューロンについて脊髄半切後にどのように再生するかについて調べた。吸息性ニューロンと呼息性ニューロンは共に細胞体から出た脊髄下行性軸索は細胞体のある側の対側の脊髄を下行する。単一呼吸ニューロンの細胞外活動をガラス管微小電極で記録し、半切側よりも下位の脊髄を電気刺激して呼吸ニューロンに逆行性電位が誘発されるかどうか調べた。吸息性ニューロンと呼息性ニューロン共に半切部の吻側の脊髄を電気刺激すると細胞体に逆行性活動電位が誘発されたが、半切部よりも下位の脊髄を電気刺激しても行性活動電位は誘発されなかった。この結果は半切後3か月経過した時点でも半切側を下行する呼吸中枢からの下行路は修復されないことを示す。一方、脊髄半切部と同じ吻尾方向のレベルで健常側の脊髄を切断すると半切側の横隔神経活動が停止することから一側の脊髄を半切し、3か月後の半切側の横隔神経活動は主に健常側を下行する下行路からの入力に依存することが示唆された。これらの研究成果は嗅粘膜組織を脊髄半切部に移植した後、どのように神経回路に組み込まれるかの実験をより単純化できる可能性もあることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究計画では嗅粘膜から採取した組織を半切部に移植し分化した細胞について生理学的な実験を行う予定であったがネコの篩板は極めて複雑で組織の採取の際に微小な骨片の混入が避けられず、また外科的な侵襲も大きいが、前額洞からのアプローチのみが篩板からの嗅粘膜細胞を採取できる方法であることが分かった。採取した組織には骨片が含まれているが骨片を取り除くためにフィルターを用いると本来の細胞が損傷を受けることから採取した組織から実体顕微鏡下で骨片など不要なものをなるべく取り除いた組織を半切部に移植することが良いことが分かった。これまでの研究で半切部では延髄呼吸中枢からの下行路は再生軸索が半切部を超えないことが分かったので嗅粘膜上皮からの採取した組織を半切部に移植すると下行路の再生、あるいは正常側からの軸索側枝の再生など研究計画書に当初予定した計画内容に沿った実験ができるめどが立った。機能回復の評価として横隔神経の神経発射を定量的に解析する必要があることから麻酔下、自発呼吸下で横隔膜から運動単位を双極針電極で記録し吸息相での発射活動開始時点を調べた。伝導速度の遅い軸索を持つ横隔神経運動ニューロンは吸息相で早い時点から発射があり、伝導速度の速い軸索を持つ横隔神経運動ニューロンは遅い時点で発射活動が認められ、運動制御の基本的な概念である「ヘンネマンのサイズの原理」にほぼ従うことが分かった。この結果は健常側においても半切側においてもほぼ同様に認められ、延髄呼吸中からのシナプス入力は半切側においても正常な運動様式を獲得することが分かった。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の研究計画通りに本年度では麻酔下の動物の脊髄を頚髄のレベルで半切し、半切部に同一個体から採取した嗅粘膜上皮組織を移植し、3か月後の半切側で横隔膜の回復を調べる。延髄呼吸中枢から単一呼吸ニューロンを記録し再生した軸索が切断面を超えるかどうか調べる。横隔神経隔核での軸索投射を調べるためにタングステン微小刺激電極を用いて第4頚髄から第6頚髄にある半切側の横隔神経核を200μAを上限として微小電流刺激する。誘発される逆行性スパイクの潜時、刺激電流の強さを系統的に調べ半切側および健常側の横隔神経核における軸索側枝の分布を解析する。移植された嗅粘膜組織より分化した幹細胞のスパイク発射の解析を行う。半切側の障害部位の周辺より呼吸性のスパイク発射活動を示す分化した幹細胞をガラス管微小電極を用いて記録する。横隔神経発射と比較して吸息性か呼息性かを区別する。介在ニューロンであることは同側の横隔神経を刺激して逆行性スパイクが誘発されないことで同定する。人工呼吸器の換気頻度を変えないで換気量を変化させて呼気二酸化炭素濃度を3.5%から7%まで変化させる。分化した幹細胞のスパイク発射活動が呼気二酸化炭素濃度に依存しているかどうか調べる。移植された嗅粘膜組織が延髄とは別に自律的な呼吸リズムを獲得するとは考えにくいので分化した介在ニューロンンへの延髄からの呼吸性シナプス入力を調べるために延髄腹側呼吸ニューロン群をタングステン刺激電極を用いて電気刺激し、分化した介在ニューロンがどのような興奮性を示すのかを調べる。
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Causes of Carryover |
当初の計画では嗅粘膜上皮から採取した組織を半切手術を行う当日に採取し、半切部に移植する方法であったが動物飼育施設で繁殖している実験動物ネコの確保が困難な状況があり、十分な成果を得る個体数での実験ができなかったので飼育費、消耗品等の次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
実験動物の育成は順調であり、当初の計画に沿った実験を実施できる状況である。実験を行うについての消耗品、薬品などの経費が必要である。また、これまでの研究成果発表のために学会出張費、論文投稿についての英文校正費を必要とする。
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Research Products
(1 results)