2016 Fiscal Year Research-status Report
走運動による神経障害性疼痛の緩和に対するGABA作動性ニューロンの関与
Project/Area Number |
15K01427
|
Research Institution | Wakayama Medical University |
Principal Investigator |
上 勝也 和歌山県立医科大学, 医学部, 博士研究員 (20204612)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
仙波 恵美子 和歌山県立医科大学, 医学部, 名誉教授 (00135691)
田島 文博 和歌山県立医科大学, 医学部, 教授 (00227076)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 運動療法 / 脳報酬系 / 自発運動 / 腹側被蓋野 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究目的は「自発運動(VWR)が生み出すExercise-induced hypoalgesia(EIH)には脳報酬系の活性化が関与すると仮説し、神経障害性疼痛(NPP)モデルマウスに対するVWRの効果を腹側被蓋野(VTA)におけるドパミン(DA)作動性ニューロンの変化に焦点を当て検討する」ことであった。おもな成果は次のとおりである。NPPモデルマウスに対するVWRは疼痛行動を有意に改善するとともに、疼痛行動閾値と坐骨神経部分損傷(PSL)後15日間の総走行距離との間には有意な正の相関関係が示された。次にEIHが起こる機序を明らかにするため、VTA DA作動性ニューロンに焦点を当て検討した。その結果、VATにおけるチロシンヒドロキシラーゼ(TH)の免疫染色強度はPSL手術により低下したが、VWRはこの低下を抑制した。TH遺伝子の転写因子として働くcyclic AMP-response element binding-protein (CREB)のTH陽性ニューロンにおける免疫強度はVWRにより劇的に高まり、さらに疼痛行動閾値とpCREB陽性/TH陽性ニューロン数との間には有意な正の相関関係が認められた。VAT DAニューロンの活性化には脚橋被蓋核/背外側被蓋核(LDT/PPTg)からVTAに入力するコリン(Ach)作動性ニューロンが関与する。そこでVWRがLDT/PPTg Ach作動性ニューロンを活性化するかどうかを検討した結果、活性化した多くのnNOS陽性Ach作動性ニューロンがLDT/PPTgに検出された。このように本年度の特筆すべき成果は、LDT/PPTg Ach作動性ニューロンの活性化を介したVTA DAニューロンでのDA産生の増加による脳報酬系の活性化は、VWRがEIHを生み出す機序の一つとなる可能性が示唆されたことである。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度の「今後の研究の推進方策等」に記載したように、本年度の研究目的は「VWRが生み出すEIHにはVWRによる脳報酬系の活性化が関与すると仮説し、NPPモデルマウスに対するVWRの効果をVTAにおけるDA作動性ニューロンの変化に焦点を当て検討する」ことであった。本年度の研究成果を要約すると次のとおりである。PSLマウスに対する2週間のVWRは、①機械的アロディニアと熱痛覚過敏を有意に緩和すること、②疼痛行動閾値とPSL後15日間の総走行距離との間には有意な正の相関関係が示されたこと、③VTAのTH免疫染色強度はPSL手術により減少するが、VWRはこの減少を抑制すること、④VWRはVTA TH陽性ニューロンにリン酸化CREB発現を高めること、⑤疼痛行動閾値とpCREB陽性/TH陽性ニューロン数との間には有意な正の相関関係が認められること、そして⑥LDT/PPTgにはVWRにより活性化したnNOS陽性コリン作動性ニューロンが検出されることを明らかにした。尚、これらの研究成果の一部は「上 勝也, 田島文博, 仙波恵美子“自発的走運動による腹側被蓋野ドパミン作動性ニューロンでのcyclic AMP-response element-binding proteinの活性化は神経障害性疼痛モデルマウスのExercise-induced hypoalgesiaに関与する” Pain Research, 31 (2016) 238-251」として公表した。このように本年度の研究目的は、ほぼ達せられたと評価している。
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究成果を踏まえて、次年度の推進方策として次の内容を計画している。平成28年度の研究成果の一つとして「VWRはLDT/PPTgコリン作動性ニューロンを活性化する」ことが分かった。しかし、これらの活性化コリン作動性ニューロンがVTAに入力しているかどうかは明らかではない。そこで、①マウスのVTAに逆行性トレーサー(RetroBeads)を注入してVWRを2週間行わせた後に脳を摘出し、LDT/PPTgを含む脳切片を作製してnNOS抗体と⊿FosB/FosB抗体を用いた2重免疫染色により、RetroBeadsを取り込んだ(VTAに入力する)LDT/PPTgのnNOS陽性コリン作動性ニューロンがVWRで活性化(⊿FosB/FosB陽性)することを明らかにする。視床下部外側野(LHA)に限局して局在するオレキシン(Orex)ニューロンは、VTAに入力してDAニューロンを活性化することが知られている。そこでVWRがLHA Orexニューロンを活性化するかどうか、さらに活性化したOrexニューロンがVTAに入力しているかどうかについて、⊿FosB/FosB抗体、Orex抗体を用いた免疫組織染色と前述のRetroBradsによるトレーサー実験を組み合わせることで明らかにする。これらの取り組みにより、VWRがVAT DAニューロンを活性して脳報酬系を活性化する神経経路の一端を解明することができると考えている。それは「①VWR→LDT/PPTgのコリン作動性ニューロン→VAT DA作動性ニューロン、②VWR→LHA Orexニューロン→VAT DA作動性ニューロン」である。
|
Causes of Carryover |
当初、当該研究の成果を「日本疼痛学会」や「日本神経科学会」での発表を計画していたが、実験データの解析等の結果、上記学会での発表を取りやめたため、次年度使用額が生じた。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度の研究費は、おもに実験用マウス、各種抗体、一般試薬、逆行性トレーサー等の購入費および英文校正費や論文掲載費として使用する。また研究成果の発表には、「日本運動器疼痛学会」、「日本疼痛学会」、「痛み研究会」等を予定しており、それらの学会参加費・交通費・宿泊費としての使用も計画している。
|
Research Products
(7 results)