2017 Fiscal Year Research-status Report
視覚障害者の心的負担・迷いを軽減するウェブサイトの構造解明に関する研究
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15K01452
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Research Institution | Tsukuba University of Technology |
Principal Investigator |
飯塚 潤一 筑波技術大学, 障害者高等教育研究支援センター, 教授 (90436288)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
岡本 明 筑波技術大学, その他部局等, 名誉教授 (10341752)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ウェブ・アクセシビリティ / 視覚障害者 / 心的負担 / ユーザビリティ |
Outline of Annual Research Achievements |
1.平成28年度試作した疑似ウェブサイトの単語を見直し,一部入れ替えを行った。具体的には,『日本語の語彙特性(NTTデータベースシリーズ)』(三省堂)を用いて,用いる単語を生活シーンの各ジャンルからまんべんなく選定する方針は堅持しつつ, “文字音声単語親密度”をより高いものに変更した。これにより,メニューの上位階層から下層までの単語を,さらに想起しやすくすることができた。 2.疑似サイトでの単語検索時の様子は,小型・軽量で持ち運び可能な『映像/音声合成デジタル収録装置』(本研究で制作)を使用して音声と動画を録音し,かつ実験協力者には検索実験開始前から胸の複数個所に貼付した心拍数測定装置を装着してもらい,心拍変動(R-R間隔)をリアルタイムで計測した。測定装置を直接胸に装着することもあり女性を実験協力者として募集しにくく,人数の安定的確保に課題がある。検索直後に主観評価法“NASA-TLX”を用いて心的負担も測定した。 3.測定した心拍変動(実験開始時から終了時まで連続的に測定)から,検索タスクの時間帯(1~2分程度)だけを抽出して,その平均を取り,検索課題ごとの指標とした。測定時間を短時間にした理由は,一般的には,高速フーリエ変換法を用いた周波数領域解析では最低300心拍,時間にして5分程度連続して安定した課題を課す測定が必要だが,今回試作した疑似サイトはメニュー項目数が少なく,かつ階層も深くないため,5分以上ウェブ検索に時間を要しないためである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
1.メニュー構造について:制作したメニュー構造は,用いた単語は“単語親密度”を揃えたもので,3階層である。試行的におこなった実験では,実験協力者が特定の用語で迷ったりしていなかったので,単語の選択に対しては正しいと考えている。5階層構造に変更して,かつ複雑な構造をと考えたが,単語間の関連性を結びつけるのが難しく,実現できていない。今後の課題としたい。 2.心拍変動の解析について:これまで,検索開始からタスク完了(目的語を見つける)までの心拍変動を平均した値を,その検索課題ごとの指標とみなしている。しかし,検索時のディスプレイ画面を録画した動画を観察すると,目的とする情報に最短距離でたどり着ける場合もあれば,特定の階層で迷ったり,上位階層に戻ったりして時間がかかる場合もある。心拍変動はその時々で変化するが,それらの詳細な動きは分析できていない。これが一定の運動を課すような実験と大きく違うところである。現在,心拍変動解析の専門家と意見交換をしており,よりリアルタイムでの心拍変動の解析方法を検討中である。 3.タスク終了後の主観評価(NASA-TLXを使用)と,タスク実行中の生理的指標(心拍変動)の両方のデータの照合により,これまで通説として“長時間のタスクをものともせず,我慢強い”と言われていた視覚障害者が,実は晴眼者と同様に,難しいタスクでは大きな心的負担を感じている,という結果が示唆されたことは非常に興味深い。更に実験協力者を増やすと同時に,実際のウェブサイトを使ってのデータも集積する。
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Strategy for Future Research Activity |
1. (1)過度な緊張を低減した実験条件下で実験協力者を増やして,個人差の少ないデータを取得する。(2)計測した心拍変動を多角的に分析する。(3)メニューの階層構造を増やす。これらによって,より実際のウェブサイトに近い環境での検索実験を行う。視覚障害者を対象とした心拍変動を用いたメンタルワークロード関連の研究はなく,より使いやすいウェブサイトは如何にあるべきか研究を進める。 2.国内外の関連文献の購読,学会・研究会への参加等によって,最新の研究成果を調査する。成果は研究会などで発表することに加え,最終的な成果は,学会誌やジャーナルに論文を投稿する。
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Causes of Carryover |
理由:実験協力者(視覚障害者)がウェブサイトを操作する際,どの程度の心的負担を感じているかを正確に知るためには,心拍数測定装置を装着しながらのウェブ検索実験を行う必要がある。今年度,3人の実験協力者による実験結果からは,タスク検索の難易度による影響だけでなく,測定装置を装着したことによる心的負担が加わっている可能性があることがわかった。胸に装着した電極からの計測用ケーブルを下着の下から垂らしながらの実験は,違和感を伴い,過度な緊張を伴ったことなどが考えられる。また,関連学会が1年開催延期になったことも理由の一つである。これにより,予算と実績との間で572,719円が差額として生じた。 使用計画:延長期間の平成30年度は,“今後の推進方策”にも記したように,データの精度を高め,学会発表や論文投稿を行うとともに,視覚障害者にもアクセスしやすいウェブサイト制作ガイドラインを作成する。
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