2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K01519
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Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
福本 まあや お茶の水女子大学, 基幹研究院, 助教 (10464033)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ソマティクス / ボディワーク / 舞踊教育 / 米国教育基準書 / 体ほぐしの運動 / awareness / 気付き |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は「体ほぐしの運動」の理論的背景と言われているソマティクスをいかに学校教育に適用し得るかを検討するもので、具体的には米国の舞踊教育学会(NDEO)が制定した舞踊学習教育基準書(NDEO基準書、2005, 2007)の中でソマティクスの理論がどのように反映されているかを読み取り示唆を得ようとするものである。当該年度は3年計画のうちの2年目にあたる。 当該年度の研究実績としては、前年度作業の成果の一部を「米国の舞踊教育におけるソマティック・ムーヴメント教育の動き」としてまとめ、舞踊学会ニューズレターのボディワーク特集号で発表した。また10月にNDEO全国大会(ワシントンDC)に参加し、ナショナル・スタンダード(2014)と NDEO基準書の関係性や、ソマティクスについての情報収集を行った。これらの作業に基づき論文「NDEO舞踊教育基準書の概要とソマティクスの成分抽出の試み」をまとめ舞踊学会大会(宮崎)で発表した。そこではNDEOという団体の位置づけ、基準書の構成、及びソマティクスの成分を示し基準書より該当する記述を抽出し整理した。そうすることでソマティクスの原理と言われる「awareness」とは振り返りの活動のみならず学習前の身体部位へのフォーカシングとしても反映されていると指摘した。これらと並行してダンス授業の視察の調整を図り、3月に米国内2州2都市4つの学校教育現場でのダンス授業を視察し関係者4名へのインタビューを行った。10月と3月、2度の米国における情報収集を通して「somatics」や「awareness」という語が、基準書執筆者や研究者の間でさえ異なる理解であることが確認された。また現場の教育者の中には学区及びNDEO基準書を元に、指導法のレベルで「身体の内側から感じることを重視する」ソマティックな指導姿勢を適用する様子が確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度は対象とするNDEO基準書の概要を国内の学会において報告するとともに、そこに反映されたソマティック成分の抽出を試みた上で、米国の学校現場においてダンス授業の視察を行うことを予定していた。結果としてこれらの作業段階はほぼ順調に進めることができた。前年度に懸案となっていた実地調査は二度の米国訪問を通して現地指導者の協力と理解を得ることができ、授業視察につながった。またNDEO基準書概要の報告や、そこにソマティクスがどのように反映しているかを分析考察することは、国内の学会発表のレベルではあるが論文にまとめて発表し先行研究者らより一定の評価を得ることができた。一方、本研究に含まれるソマティクスの成分の同定という作業は、ソマティクスという概念の曖昧さゆえに難しい状況に直面した。この問題は学会発表後の米国出張の際に現地の教育者や研究者の協力を得て抽出作業を対面方式で行った結果、ソマティクス理論への期待の度合いや指導者イメージの違いによって成分の同定が異なることが浮かび上がった。またNDEO学会への参加と現地調査を通して、国家基準書(2014)執筆者からの情報収集が予想以上に進みその制定に際して検討されたNDEO基準書の特性についての説明を受け、理解を深めることができた。3月に行った現地のダンス授業の視察を通しては、ダンス授業におけるソマティクスの反映の実際のみならず、「Learning through dance」(他科目の学習内容をダンスで学ぶ授業)の視察の機会にも恵まれ、米国におけるダンス授業の現在を幅広く知る重要な経験となった。以上のことより、本研究は概ね順調に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は研究の最終年度にあたり、これまで得た情報を総括し論文としてまとめることを最優先する。加えて当初は、現地学校のダンス授業の視察を通して現場の教育者がソマティクスの成分を基準書からどのように理解し適用しているか、または理解できず適用が見られないかを明らかにするという作業を含めていた。しかしこうした調査は現地関係者の協力が得られにくいことが判明している。そのため、平成29年度においても米国のダンス授業を視察する予定であり新たな協力者を得ているが、それは教育者の基準書におけるソマティクスの成分についての理解度を判定するための調査としてではなく、ソマティクスを適用した優れた指導事例を捉えるという目的のもと、対象とする指導者らが基準書からどのように指導法を構築しているかの実際を収集するという内容で実施したいと考えている。 これまでの作業よりソマティクスの適用とは、呼吸、ハンズオン、運動パターンに加えて、身体部位へのフォーカシングによる運動の効率化や運動の選択肢の意識化という指導学習の内容に見られることが捉えられてきている。そのため今後の作業の一つとして国内の「体ほぐしの運動」に関する先行研究の「気付き」の捉え方を、こうした知見から整理し再考察する作業を行いたい。そうすることで「体ほぐしの運動」が本来意図していた狙いを達成するために必要な方策を指摘するとともに、既に別の形で達成されている可能性について検討することにつながると考える。
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Causes of Carryover |
当該年度は計画通り進められたが、平成27年度の未使用額を繰り越していたがその一部をさらに次年度の米国調査費用の不足分充当として使用する計画を立てたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度予算の残額は、当初予算からの減額分によって生じている平成29年度の米国調査旅行費用及び指導助言者への謝金の一部として充当する計画である。
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Research Products
(2 results)