2016 Fiscal Year Research-status Report
脂肪組織リモデリングに対する運動効果:TGF-β -TIMP1経路を中心として
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15K01626
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Research Institution | Kyorin University |
Principal Investigator |
櫻井 拓也 杏林大学, 医学部, 講師 (20353477)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 脂肪組織 / 運動トレーニング / 肥満 / 細胞外マトリックス / リモデリング / TIMP1 / TGF-β |
Outline of Annual Research Achievements |
肥満の原因臓器である脂肪組織は肥満や運動トレーニングによって再構成(リモデリング)を起こす可塑性の高い臓器である。申請者は、肥満や運動トレーニングによる脂肪組織のリモデリングに対する細胞外マトリックス(ECM)の役割について、組織線維化関連サイトカイン・トランスフォーミング増殖因子-β(TGF-β)とECM分子・tissue inhibitor of metalloproteinase 1(TIMP1)に着目し検討を行っている。4ヵ月間の高脂肪食摂取により肥満・全身のインスリン感受性の低下を呈したマウスの内臓脂肪組織では、TGF-βとTIMP1遺伝子の発現が対照群に比べて有意に増加したが、運動トレーニングはこれらを有意に減弱させた。さらに、高脂肪食摂取・運動トレーニングを短縮した場合でも同様の傾向が観察された。また、TIMP1は脂肪細胞おいてTGF-βによって発現が誘導され、インスリンシグナルによる糖の取り込みを減弱させたことから運動トレーニングのインスリン感受性増加作用にTGF-β-TIMP1経路の制御が関与していることが推測された。さらに、TIMP1の作用を発揮するシグナル伝達経路を同定する目的で、TIMP1と相互作用するタンパク質の同定を試みたところ、TOM70タンパク質などのいくつかの候補タンパク質が同定された。現在、候補タンパク質とTIMP1の結合やその生理的意義について検討を行っている。以上の結果から、TGF-β-TIMP1経路は運動トレーニングによる肥満・2型糖尿病の予防・改善のための新たなターゲットになり得ることが推測される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの検討から、高脂肪食を4ヵ月摂取させて肥満と全身のインスリン感受性の低下を示したマウスの内臓脂肪組織では、TGF-βとTIMP1の遺伝子発現が増加するが、これらの増加は運動トレーニングによって減弱されることが明らかになった。さらに、TIMP1は脂肪細胞のインスリンシグナルを減弱し、糖取り込みを抑制することがわかった。また、脂肪細胞においてTMP1の作用を発揮するシグナル伝達経路を解明するため、GST-pull down法と質量分析機を用いてTIMP1と相互作用するタンパク質の同定を試みたところ、ミトコンドリアへのタンパク質輸送に関与すると報告されているTOM70や核膜の構造維持および転写制御を行うラミンなどのタンパク質が候補として同定された。平成28年度は、高脂肪食摂取・運動トレーニングを2ヵ月に短縮して検討を行ったが4ヵ月の場合と同様の傾向が観察された。さらに、平成28年度よりTIMP1のレンチウイルスベクターを用いたTIMP1高発現3T3-L1脂肪細胞やFlagタグ付きリコンビナントTIMP1を用いることによって、TIMP1と上記の候補タンパク質との結合やその生理的意義を明らかにするための検討を行っている。また、Two-Hybrid法を用いて新たなTIMP1との結合タンパク質の検索も進めている。レンチウイルスの細胞障害性などの問題によって脂肪細胞におけるTIMP1の作用やそのシグナル伝達経路の同定にはまだ至っていないが、これらの問題は十分に解決可能であり、研究全体の進捗状況はおおむね順調であると判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
1.脂肪細胞におけるTIMP1の作用とシグナル伝達経路の同定ならびにその生理的意義の検討 脂肪組織におけるTGF-β-TIMP1経路の影響を解明するため、TIMP1の全長cDNAを組み込んだレンチウイルスを作製した。このウイルス3T3-L1脂肪細胞に感染させ、TIMP1高発現3T3-L1細胞を樹立する。樹立されたTIMP1高発現3T3-L1細胞において、GST pull down アッセイおよびTwo-Hybrid法で検索されたTIMP1結合タンパク質が、実際に脂肪細胞でTIMP1と結合するかを免疫沈降法で確認する。さらに、TIMP1高発現3T3-L1細胞におけるインスリンシグナルやアディポカイン発現の変化などを観察し、脂肪組織におけるTGF-β-TIMP1経路の作用とそのシグナル伝達経路を同定する。同様の検討をFlagタグ付きリコンビナントTIMP1タンパク質を用いても行う。 2.in vivoにおける脂肪組織に対するTIMP1の機能解析 上記の検討で同定された脂肪細胞におけるTIMP1の作用が実際に生体の脂肪組織で起こっているか検討を行う。高脂肪食を摂取させて肥満と全身のインスリン感受性の低下を示したマウスの脂肪組織においてTIMP1増加による変化や同定されたシグナル伝達経路の活性化が起こっているかを観察する。さらに、それに運動負荷を与えた場合にその活性化が減弱されるかについても検討を行う。
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Causes of Carryover |
割引などのために消耗品にかかる費用が当初の予想よりも若干低かった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
新たに他の消耗品のために使用する。
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Research Products
(19 results)