2016 Fiscal Year Research-status Report
統合失調症者の自己主体感の改善およびリハビリテーションに寄与する運動療法の開発
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15K01695
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Research Institution | Kobe Gakuin University |
Principal Investigator |
山本 大誠 神戸学院大学, 総合リハビリテーション学部, 講師 (10411886)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
岡村 仁 広島大学, 医歯薬保健学研究院(保), 教授 (40311419)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 統合失調症 / 自己感 / 身体気づき療法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、研究協力者の所属する精神科病院2施設において、統合失調症者を対象に臨床データの収集を継続中である。 本年度は、前年度の予備的研究から得られた知見をもとに研究計画を見直し、本研究課題の中心として位置づけている自己感(自己(運動)主体感および身体所有感)が運動の介入でどのような影響を及ぼすかという研究疑問を中心に検討を進めた。本研究の自己感は、身体的な自己意識を中心として取扱い、これまで心理学や哲学の領域で議論されてきた身体性の観点から、統合失調症者に対する身体運動介入が自己感を改善することが確認された。 運動介入方法は、北欧を中心に開発された身体気づき療法(BBAT)を主体として、日本の医療現場に対応した修正を加えて実施した。運動療法は、これまでにBBATの講習を受けた各研究協力施設の理学療法士が、1回60分、1週間に2回の頻度で8週間、合計16回実施した。また、運動介入の即時的効果の検証については、1日のみBBATを実施して効果検証を行った。 これまで、精神疾患に対する治療は薬物療法が第一選択肢であり、心身二元論的立場が主流である日本の精神医学に新たな治療の可能性が示唆されたことは非常に意義があると考える。 本研究の成果は、平成29年度に開催される国際学会(世界理学療法連盟アジア学会;タイランド)で発表予定である。自己感の改善は認められたが、対象者は入院者であり、生活上の改善までは追跡できておらず、本年度は対象者の生活機能を焦点に研究をすすめることが課題となる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は概ね順調に進行している。本研究の対象者は、精神科病院に入院している統合失調症者としており、8週間の介入期間に継続した運動療法の参加が要件となる。現在では、統合失調症者の入院者が減少傾向にあること、入院期間が短縮されてきたこと、さらに研究の趣旨の説明後の同意が得にくいことなどから、研究対象者の募集が非常に困難であった。これらのことから、平成28年度は研究の進行が遅れていたが、各協力施設の尽力により、研究計画時の目標数であった80%程度の対象者について検討が可能であった。しかし、本年度も臨床介入研究の継続を実施しており、より精度の高い検証を続けている。 本研究における対象者のアセスメント手続きは、精神症状評価尺度として陰性陽性症状評価尺度および自己主体感尺度を実施している。また、認知課題として、メンタルローテーション課題、運動イメージ課題、指当てテストを実施し、運動課題として10m歩行(イメージ歩行と実歩行)、重心動揺検査、深部感覚検査、形態模写課題を実施している。ただし、臨床においてこれらの全評価を同時期にアセスメントするのは困難であり、アセスメントの信頼性と妥当性を保つための取り組みが今後の課題となる。これらの課題の解決に向けて、今回のアセスメント結果の分析(重回帰分析や共分散構造分析など)を実施し、自己感に対する重要なアセスメント項目を抽出することが考えられる。これらのことから、対象者の負担を軽減し、アセスメントの精度を高め、研究成果をより信頼性のある形で進めていく必要があると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度前半は、前年度に引き続き、アセスメントを見直して臨床における運動介入を継続する。後半は、これまでの研究成果を基に、統合失調症者に対する身体運動の介入が自己主体感および自己意識の改善にどのように寄与したか、また身体運動の介入を含んだ精神科医療における包括的リハビリテーションのあり方について科学的根拠に基づいた視点から検討する。また、本年度の取り組みが単なる文献調査にとどまらず、協力施設のBBAT実施者に対して半構造化面接を実施し、どのような対象者に、どう対応したのか、対象者がどのような反応を示したのかなど、臨床におけるより効果的な運動療法のあり方について検討する。 本年度はこれらの作業に加え、精神科リハビリテーションにおける運動療法の実践的展開の可能性について検討を行う。これらの調査研究から、統合失調症者に対する自己意識を改善するための運動療法、および包括的リハビリテーションのあり方について明らかにするとともに、統合失調症に対する運動療法の位置づけを明確にして具体的な成果を社会に還元することを計画している。
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Causes of Carryover |
2016年度の助成金の残額については、2015年度における研究実施が遅れ、2016年度の臨床試験が遅くなったことが理由としてあげられる。2017年度は2016年度の臨床試験を継続的に実施する予定であり、この点において予算の執行は繰り越しとして必要となる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
2016年度に臨床試験を進めてきたが、2017年度は協力施設との連携を強化するために、可能な限り施設での打合せおよび研究ミーティングの機会を増やす予定である。研究目的の達成には、より多くの視点から対象者を捉える必要があるため、臨床で働く協力者が臨床研究の時間を確保するための工夫が必要である。そのため、研究の成果を共有できる研究会などを各施設で開催できるようにする予定である。2016年度の残額は2017年度へ繰り越し、本研究成果を広報するために各施設への旅費および施設場所借用などの運用に充当する予定である。
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