2015 Fiscal Year Research-status Report
多機能面からのリポ蛋白リパーゼ分子診断による動脈硬化の早期診断・予防システム構築
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15K01744
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Research Institution | National Cardiovascular Center Research Institute |
Principal Investigator |
高木 敦子 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, 研究所, 室長 (90179416)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | リポ蛋白リパーゼ / 高トリグリセリド血症 / 自己免疫疾患 / 動脈硬化 / バイオマーカー |
Outline of Annual Research Achievements |
生活習慣病である高トリグリセリド血症は心疾患を将来的に引き起こすメタボリックシンドロームの評価項目であり、心疾患危険因子である。血清トリグリセリド値は、トリグリセリドの分解系と合成系により決まる。分解系は主にリポ蛋白リパーゼ(LPL)が関与する。LPLのトリグリセリド分解活性の低下は高トリグリセリド血症の原因となるので、LPLのトリグリセリド分解機能異常は動脈硬化を促進する。 更に、LPLは、トリグリセリド分解活性非依存的に、細胞へのリポ蛋白とりこみを促進する働きのブリッヂ機能もある。 我々は、ブリッヂ機能により動脈硬化性疾患の発症に直結すると想定されるバイオマーカー(mLPL-ADF: 20kDaのLPL-C末端部分)を見いだしている。 本研究において、LPL のトリグリセリド分解活性機能と細胞へのリポ蛋白とりこみを促進するブリッヂ機能の多機能面からの解析により、動脈硬化の早期診断とその予防に役立つシステム構築を目指す。 今年度、LPLのトリグリセリド分解機能面からの解析として、他施設からの紹介の3名の高トリグリセリド血症患者のLPL等を解析したが、原因変異は見い出されなかった。 高トリグリセリド血症の非遺伝因子による原因のひとつであるLPLの自己抗体産生を調べるために必須のTG水解活性のあるLPL蛋白の調製法の改善を行なった。これを用い、自己抗体の存在の有無の面からも解析を続ける。 LPLのブリッジ機能面からの解析として、まず、健常者10名の市販血液を利用し,ウエスタン法で、これら分子種の存在バリエーションを調べたところ、mLPL-ADFの割合[20kDa/(20kDa+21kDa)]は8%と低かった。mLPL-ADFのバイオマーカーとしての有効性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)LPLのトリグリセリド(TG)分解機能面からの解析 新規高TG者A(8ヶ月女)は、LPL活性、蛋白とも低値で、LPL遺伝子の解析を行なったが、原因変異は検出されなかった。LPLの合成に係るLMF1、LPLの作用場への移行と保持に係るGPIHBP1にも原因変異は検出されなかった。新規高TG者B(8歳女)は、LPL活性、蛋白とも低値であったが、LPL遺伝子に原因変異は検出されなかった。新規高TG者C(7歳女)は、LPL活性、蛋白とも正常値で、遺伝子解析は行なわなかった。LPL に対する自己抗体産生の可能性はあるが、検体未入手で、解析はできなかった。 自己抗体産生を調べるために必須のTG水解活性のあるLPL蛋白調製法の改善を行い、組換えLPL遺伝子の無血清培養での発現を導入した。 (2)LPLのブリッジ機能面からの解析 20-kDaのバイオマーカーmLPL-ADF以外に、血中にLPL C末端断片として、21-と22-kDaの蛋白も存在する。これら3種のLPL分子を鑑別定量できる簡便な方法を開発する必要がある。まず、健常者10名の市販血液を利用し、ウエスタン法で、これら分子種の存在バリエーションを調べたところ、mLPL-ADFの割合[20kDa/(20kDa+21kDa)]は8%と低かった。mLPL-ADFのバイオマーカーとしての有効性が示唆され、mLPL-ADFの簡便な測定系の作成が必須と考えられた。 (3)さらに、mLPL-ADFの利用を検討する途上、N末端側の蛋白(40-kDa-LPL)の利用も可能ではないかと考えた。LPLからmLPL-ADF 等のC末側蛋白が産生されるとき、同時に40-kDa-LPLの、N末端側の蛋白も産生されるが、この存在は、特異的抗体がないため、未知である。特異的抗体作製に用いる抗原調製のため、本蛋白の大腸菌と動物細胞での発現系を構築した。
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Strategy for Future Research Activity |
(1) LPLのTG分解機能面からの解析 所属施設内や全国から高TG血症患者の遺伝子解析の新たな依頼があるため、本解析を引き続き行う。上記Bに関しては、LMF1やGPIHBP1の解析も行なう。さらに、新規変異に関してはそれが、真のLPLのTG分解機能低下の原因であることを、変異LPL cDNAのCOS1細胞での発現により確認する。非遺伝的因子に関しても検討する。 (2) LPLのブリッジ機能面からの解析 まず、これらが単なる個人差でないことを確認する。血中に20-kDaのmLPL-ADF蛋白がない被験者の血中からマクロファージ(Mφ)を分離培養し、そこに20-kDaのmLPL-ADF蛋白の有無を調べる。 レクチンとLPLモノクローナル抗体の組み合わせを検討し、20-kDaのmLPL-ADF蛋白を特異的に定量できる簡便な測定系を開発する。 (3) 40-kDa-LPLの生理機能の解明とバイオマーカーの可能性の検討 動物細胞で本蛋白を高発現させ、その局在、分泌の有無を調べる。 本蛋白がTG分解活性を持つか調べる。本蛋白をリパーゼ活性あるいはSDS-PAGEで追い、精製し、抗原を調製する。ポリクローナル抗体作製し、本蛋白の局在性を免疫染色で調べる。本抗体で反応するが、すでに作製済みのLPL―C末端側を認識するモノクローナル抗体とは反応しないことで、インタクトなLPLと区別する。すでに作製している300種類位のLPLモノクローナル抗体のなかで、40-kDa-LPL特異的に認識するものを選別する。局在や生理的機能から、将来的にバイオマーカーになりうるかを検討する。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた主たる原因は、計上していた人件費を使用しなかったためである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
翌年度分として請求した助成金と合わせ、主に物品費として使用する。 生じた次年度使用額分は主に、新たに創案された蛋白のバイオマーカーとしての適切性を調べるために使用することとする。
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