2017 Fiscal Year Research-status Report
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15K01781
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Research Institution | Doshisha Women's College of Liberal Arts |
Principal Investigator |
笠間 浩幸 同志社女子大学, 現代社会学部, 教授 (10194713)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 砂場 / 砂 / 子ども / 遊び / 砂遊び / 環境 / 保育 / 保育者 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は保育遊具「砂場」の教育的可能性について、特に物理的特性に焦点を当て、その条件の違いによる子どもの砂遊びと保育者の指導上の課題を考察する。一昨年度まで、砂場の形状や大きさ、配置数や位置などの条件について、日本国内及びニュージーランドにて調査を行った。また昨年度は、特に砂場の最も基本的な構成要素となる「砂」の状態こそが、砂場環境の良し悪しと砂場保育の充実度を左右する大きな要因であることを突き止めた。本研究は現在、そもそも「砂」とは一体何か、砂場に導入すべき「適切な砂」とはどのような状態の砂であるかという問題に焦点を当て、様々な砂場の砂調査及び砂の採取から精製過程、保育施設への搬入システム等を含めて砂場環境改善の方向を探っている。 砂場環境に関しては、かつて、わが国の幼児教育の確立と発展に大きな影響を与えた倉橋(1913)が「砂場が土まじりのコチコチになって居る」ことの問題を取り上げていた。だがこのことは長く、砂遊びの最中に砂場に土を持ち込んではいけない、また固くなった砂場の砂は定期的に掘り起こすことが大切であるといったメンテナンス上の問題ととらえられることが一般的であった。しかし、本研究を通して、問題の核心はそもそも最初から砂場には「適切な砂」を導入せよということであったことが明らかとなってきた。 そこで本研究では現在、①保育所や幼稚園、小学校等の砂場の状態及び活用状況と砂場の砂の状態との関連性、②「適切な砂」を仮説的に提示し、その砂へ保育者や教師、幼児・児童が触れる機会を設定、③「適切な砂」への感想と具体的な遊びの変化の把握を通して「適切な砂」を基準化することを試みている。今後、この「適切な砂」の標準化から日本の砂場環境改善の方向性を明らかにしていきたい。 *倉橋惣三(1913)第13巻7号、245-246(=1979復刻『幼児の教育』所収、日本らいぶらり)
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度、砂場の環境整備の課題として、砂場の砂の状態こそが最も基本的かつ重要な要素であることを明らかにした。今年度は、砂の状態をより客観化できる指標として砂の「粒度(砂粒の直径)」試験による砂の分類に基づき、砂場の問題の見える化と数値化を図ることを試みた。 具体的には、砂の定義(JIS規格)「直径0.075mm~2.0mmの大きさ」に基づき、砂場の砂の割合と砂場環境との関係性を探った。多くの砂場にはこれ以上の粒度を持つ「礫」や、粒度の小さい「シルト・粘土」が混在するが、これらの比率によって砂場の状態は大きく変化する。なお、この粒度試験は関西地盤環境研究センターの協力を得て行った。 粒度試験の結果、目視及び手触りによって比較的好環境と思われる砂場の砂(京都府、東京都、福島県、ニュージーランドの砂)はいずれも砂比率がいずれも95%を超えていた。そこで「砂分(砂比率)」95%以上の砂をもって砂場に「適切な砂」であるという暫定仮説を立て、この仮説の検証を行った。検証方法は、①135名の保育者実技研修会において「適切な砂」に保育者や小学校教師が直接触れる機会を設けてアンケート調査と聞き取りを行った、②一定量の「適切な砂」を施設の砂場に提供し、実際に子どもたちの遊びの様子の変化についてアンケートと聞き取りを行った。対象は福島県内で5施設、京都府亀岡市にて2施設とした。 これらの検証結果として、まず①では多くの保育者・教師が「適切な砂」の触覚の心地良さを感じ、是非自園の砂場への導入を図りたいという希望を表明し、子どもの遊びの変化も予想した。また②の実際に「適切な砂」の導入を図った施設では子どもの遊びの変化が顕著であった。このことから「適切な砂」の適切性は、ほぼ確認できたものと考える。今後は、この「適切な砂」への認識の浸透と、継続的な「適切な砂」の搬入可能性を広げることが課題となる。
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Strategy for Future Research Activity |
まず「適切な砂」の適切性に関して精度を上げる研究に取り組む。具体的には、対象とする幼児・児童、保育者・教師数を増やし、「適切な砂」と適切ではない砂に対する感触的な違い、遊びの発展性の違い、保育者・教師の側の砂場環境のとらえ方や保育・教育カリキュラムの展開の仕方の違い等について、より詳しい実験と検証を行う。検証対象地域は、福島市、福島県棚倉町及び京都府亀岡市の3か所で行うことを計画する。違った地域での検証がより客観的な考察につながるものと考える。 第2は、保育・教育現場への継続的な「適切な砂」の導入プロセスと方法を明らかにする。現時点では、砂場の砂の適切性を示す基準が何も定まっていないことと、砂場用の砂として採取-精製-流通-搬入の条件が明確になっていない。これらの解決こそ砂場環境改善の大きな要因となると考えるが、これを保育現場、小学校、更には所管の行政部局とのやり取りを通して確実な方策として位置づけたい。 第3は、昨年度、砂場の歴史に関する貴重資料となる文研の翻訳を終えた。それは、Dragehjelm,H. (1909=1909 Dietrich,A. Das Spielen der Kinder im Sande, K.F.Koehler)である。これは100年前のヨーロッパ諸国とアメリカにおける砂場の位置づけや砂場環境、子どもの遊びの様子を記した貴重な文献であるが、その公開を目指すとともに、具体的な内容の今日的課題との比較を行い、砂場環境づくりの課題を見直したい。 以上大きく3点の研究推進方策であるが、課題としては、まず、違った地域における研究の同時進行が、砂場の使用頻度が上がる7月-9月に重なっていくことから、綿密な研究計画を立てることと、アンケートや聞き取り調査の同質性を確保することがあげられる。また、翻訳に関しては出版化が大きな課題である。
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Causes of Carryover |
海外での学会発表を予定していたが、体調不良で欠席したため。 物品の購入が廉価なもので満たすことができたため。 今年度は、物品購入及び国内研究調査の旅費として使用する。
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