2016 Fiscal Year Research-status Report
ポリリン酸によって骨芽細胞の石灰化が促進する情報伝達分子メカニズムの解明
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15K01793
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
堤 香織 北海道大学, 保健科学研究院, 助教 (80344505)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ポリリン酸 / 石灰化 / 骨芽細胞 / ミトコンドリア / ATP |
Outline of Annual Research Achievements |
H28年度は前年度に新たな課題として上がった(1)ミトコンドリアの活性変化や膜電位変化の観察、(2)生きた細胞のミトコンドリアの形状観察、前年度から継続して(3)ATP量の変化の観察、(4)プリン受容体を介した情報伝達経路の解析を目標として研究を実施した。以下に進行状況と計画の変更を記載する。 (1)膜電位依存的にミトコンドリアを染色することの可能な蛍光指示薬Mitotrackerを用いて、骨芽細胞様細胞MC3T3-E1をポリリン酸で処理した際のミトコンドリアの膜電位の変化を観察した。しかしながら、処理後3時間後、2日後ともに処理なし、あるいはリン酸ナトリウムで処理したコントロールとの間に膜電位の差は観察されなかった。同様にミトコンドリア膜電位の指示薬であるJC-10によっても同様の結果となった。 (2)生きた細胞を用いたミトコンドリアの形状観察では、ポリリン酸処理細胞において特徴的な構造をもつミトコンドリアが僅かに観察された。しかし我々が以前電子顕微鏡によって観察したポリリン酸処理細胞で特有の形態学的な変化は、Mitotrackerでは観察することはできず、形状変化の動的観察を行うことはできなかった。また、分裂と融合に関しては、定量評価が難しく分裂と融合の存在比を算出することはできなかった。 (3)細胞にポリリン酸を添加することによる細胞内ATP量の低下に関して再現性を確認したところ、ポリリン酸処理後10分から24時間の持続的なATPの低下が観察された。 (4)プリン受容体を介した情報伝達経路に関しては、ミトコンドリアの観察やATP量変化に関する研究に重点を置くこととして着手に及ばなかった。 H28年度は国内外の専門家と密に連絡を取りながらポリリン酸による細胞内ATP濃度の持続的な低下と生きた細胞におけるミトコンドリアの膜電位依存的形状観察の実験系を確立したことが大きな成果である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
H28年度は前年度に新たな課題として上がったポリリン酸添加によるミトコンドリアの膜電位依存的な形状観察を安定して観察できる系を確立することができた。ポリリン酸処理の有無によるミトコンドリアの膜電位の差を観察することは出来なかったが、ポリリン酸添加によるミトコンドリアの変化を生きた細胞で動的に観察する足場を同時に確立することができた。細胞内ATP濃度の変化についても再現性が確認することが出来、ポリリン酸の添加によって細胞内ATP量の持続的な現象が生じることがわかった。プリン受容体を介した情報伝達経路に関する実験に着手することは出来なかったが、H28年度はミトコンドリアをターゲットとした研究遂行に集中することができたといえる。以上より、本研究は概ね順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度であるH29年度は、ポリリン酸によるミトコンドリア活性変化の解析に加えて、ATPase活性やアデニレートキナーゼ活性といったATP代謝に関わる酵素活性の変化についても検討し、石灰化促進効果との関連性を明らかにしたい。また、ポリリン酸処理よる細胞内ポリリン酸代謝の変化についても調査しATP代謝の変化との関連性についても明確にしたい。更には、H28年度に引き続き生きた細胞内のミトコンドリアの分裂と融合の割合の変化についても継続して観察を行い、定量評価を試みる予定である。
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Causes of Carryover |
H28年度は概ね予定通りの支出となり細胞培養関連の消耗品、ATP検出試薬とそれに伴う消耗品、ミトコンドリア検出試薬等の分子生物学的試薬に多くの予算を使用した。H29年度もH28年度を継続した実験計画としているため、同様の分子生物学的試薬と消耗品が必要となる。また、最終年度であるため、国内学会または海外への成果発表のための旅費、論文掲載のための準備費を予算として組み込む予定である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
実験器具としては、細胞培養関連の使い捨てプラスチック器具、培養プレート、チップ、プラスチックチューブ、ガラスボトムディッシュ等を購入する予定である。また、試薬類としては、細胞培養培地、細胞増殖の指示薬、ATP検出試薬、膜電位依存性のミトコンドリア検出蛍光試薬、ADP量検出試薬等の購入を予定している。実験の進行によってはタンパクの局在や発現量の確認の必要が生じた場合には、免疫染色やWestern blottingで使用するタンパク検出用の抗体の購入も予想される。その他に、学会発表に参加する場合には学会参加費ならびにその旅費、論文投稿の際には英文校正料、必要に応じて投稿料を支出の予定である。
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