2015 Fiscal Year Research-status Report
錐体オプシンを用いた光遺伝学的手法による睡眠・覚醒制御システム作動機序の解析
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15K01832
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
前島 隆司 金沢大学, 医学系, 助教 (70399319)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 睡眠・覚醒 / オレキシン / セロトニン / ヒスタミン / 光遺伝学 |
Outline of Annual Research Achievements |
睡眠は心身の健康を保つために欠かせない生理機能であり、脳内の睡眠・覚醒制御システムの解明は睡眠障害の治療、健全な社会生活の構築に寄与する重要な研究課題である。これまでその制御システムを担う神経回路基盤や関連分子が明らかにされてきたが、それらの織り成す動的な作動機序については依然不明な部分が多い。近年、任意の神経細胞の活動を光照射により時空間的に精緻に操作する方法(光遺伝学的手法)が開発され、脳機能の解明に大きな成果を挙げている。本研究では、視床下部神経系とモノアミン・コリン作動性神経系により形成される睡眠・覚醒制御システムの解析に光感受性タンパク質である錐体オプシンを用いた光遺伝学的手法を導入し、この入出力回路のダイナミクスと機能的役割の解明を目指している。本年度はモデル動物のマウスにおいて視床下部オレキシン神経及び縫線核セロトニン神経の電気的活動を光遺伝学的手法により操作して、睡眠・覚醒状態の変化を観察する実験系の立ち上げを行なった。長波長型及び短波長型錐体オプシンをアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターによりセロトニン神経特異的に導入し、光照射により過分極応答を誘発させることを確認した。オレキシン細胞においても同様に神経細胞の活動低下が誘導された。また、当初次年度以降に予定していた研究を一部先行して開始した。そこでは睡眠・覚醒制御に寄与する他のモノアミン神経系としてヒスタミン神経系に着目し、その神経系に対しシナプス入力を形成する神経細胞群を逆行性標識法により同定した。今後は生体マウスにおける睡眠解析の実験を重点的に行い、手法の修正を行いながら実験を重ね、慎重に結論を導出したい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度はモデル動物としてマウスを用い、視床下部オレキシン神経及び縫線核セロトニン神経の神経活動を錐体オプシン等を用いた光遺伝学的手法により操作し、睡眠・覚醒状態の変化を観察する実験系の立ち上げを行なった。長波長型及び短波長型錐体オプシンをAAVベクター内にCre-loxp部位組み換え反応により細胞特異的に発現されるようクローニングした。オレキシン神経及びセロトニン神経特異的にCreリコンビナーゼを発現するOrexin-Creマウス及びSERT-Creマウスに対しそれぞれ視床下部外側野及び背内側縫線核内にウイルスベクターを投与した。いずれの錐体オプシンもセロトニン神経特異的に発現し、光照射により過分極応答を誘発させることを電気生理学的手法により確認した。視床下部においては一部非特異的発現が認められたが、オレキシン細胞においても同様に神経細胞の活動低下が誘導された。また、次年度に実施予定の実験について予備実験を行った。脳波・筋電計測下の生体マウスにおいて、錐体オプシンを導入した神経核に対し光ファイバーを通して直接光照射を行ない、睡眠・覚醒状態の変化を観察する実験系を立ち上げた。予備的ではあるが光照射期間において睡眠・覚醒状態の変化を観察した。また、一部当初の計画を前倒しし、新たにヒスタミン神経系による睡眠・覚醒制御回路に着目し、その神経系に対する入力神経細胞群を逆行性標識法により同定する実験を確立した。以上のようにおおむね順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度の実験計画に従い、生体マウスを対象とした実験を中心に行なう。AAVベクターにより錐体オプシンを導入したマウスに対し光遺伝学的操作を行い睡眠状態の変化を観察する。覚醒・レム/ノンレム睡眠の各相に合わせ光照射を行い、脳波・筋電の変化を観察し、相の時間延長・短縮または相の転移が生じるか解析する。光ファイバーと多点電極を組み合わせたオプトテトロードを用い光照射時の神経活動を記録し、また神経活動マーカー(c-fos)の免疫染色を行いその染色度から神経活動に対する光刺激の効果を確認する。また、錐体オプシンにより神経細胞の投射部位において伝達物質の放出を抑制させる手法を確立する。この効果を高めるため、錐体オプシンを神経終末に積極的に配置させるよう遺伝子工学的手法により改良を行なう。最初に機能評価をin vitroにおいて行ない、光刺激により伝達物質の放出が抑制されるか検証する。さらに、この手法を生体マウスに適用し睡眠・覚醒制御システムの解析を行う。
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Causes of Carryover |
購入を予定していたLED光源の価格上昇により、購入を見送ったことが最大の理由である。また、マウスの飼育頭数の見直しによる物品費と一部の学会参加を見送ったことによる旅費の軽減に起因する。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
LED光源の購入に充てる。また、光学素子・光ファイバーの価格上昇分に補てんする。
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