2015 Fiscal Year Research-status Report
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15K01842
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
岩瀬 克郎 千葉大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (80322030)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 神経ペプチド / 恐怖条件付け / 遺伝的背景 / CREB |
Outline of Annual Research Achievements |
恐怖条件付け学習による身体のすくみ反応が野生型と異なるセクレトグラニンⅡ遺伝子(Scg2)の欠損マウス(Scg2 KO)は、不安・恐怖の制御機構を明らかにする上で良いモデルマウスとなる。当年度は、電気刺激と音刺激を組み合わせた恐怖条件付け後のすくみ反応について、遺伝子型、並びに遺伝的背景による差異を確認した。遺伝的背景がB6系統のマウスでは、恐怖条件付け学習時や、音刺激をきっかけとした想起試験において、すくみ反応が抑制傾向を示した。海馬依存的な文脈的想起試験ではあまり差は認められず、扁桃体での音条件との関連づけに影響している可能性がある。一方で、B6-129混合系統では、すくみ反応の抑制は見られず、遺伝的背景の違いによってScg2由来神経ペプチドの効果あるいは作用が異なることが示唆された。 前述のすくみ反応の変化と、電気刺激に対する感受性との関連について検討するため、マウスに1秒間の電気刺激を、0.1~ 0.7 mAまで、0.1 mA刻みで上げながら加え、move、run、vocalize、jumpの各反応を誘発する電気刺激の強さを、遺伝子型、並びに遺伝的背景で比較検討した。B6系統で、vocalizeの反応を引き起こす電気ショックのレベルがKOでやや強かったほかは、遺伝子型による違いは認められなかった。遺伝的背景による比較では、jumpの反応がB6系統の方で起きやすかった。 Scg2由来神経ペプチドにより活性化される、記憶・学習に関わる細胞内シグナル伝達を調べる端緒として、マウス海馬初代培養神経細胞をScg2由来神経ペプチドで刺激し、転写調節因子のリン酸化について確認した。血管内皮細胞等において既に報告のあるERKのリン酸化の増加に加え、CREBのリン酸化の増加傾向も確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Scg2 KOマウスでみられるすくみ反応の変化について、検証を進めている。電気刺激と音刺激の組み合わせによる恐怖条件付け学習や、その後の想起によるすくみ反応について調べた結果、B6系統のマウスにおいてはScg2由来神経ペプチドは、海馬依存的な記憶の形成というよりは、扁桃体での音条件との関連づけに関与している可能性が示唆された。加えて、遺伝的背景による差異について比較から、遺伝的背景の違いによってScg2由来神経ペプチドの効果あるいは作用は異なることも示された。特に想起反応時のScg2 KOでは、遺伝的背景による差が顕著であり、その差異をもたらす要因にも関心が持たれるところである。また、すくみ反応の変化の傾向と電気ショックに対する反応性の変化は一致しておらず、単純に電気刺激に対する感受性の違いに帰結するものではないことも確かめられた。 Scg2由来神経ペプチド受容体の同定については難航しているが、Scg2由来神経ペプチドの一つ、セクレトニューリンの受容体はGPCRであると推定されていることから、Orphan GPCRパネル解析にてScg2由来神経ペプチドに応答するGPCRを検索し、いくつかの候補遺伝子を得ている。 また受容体の同定に先行して、Scg2由来神経ペプチドの入力に応答した細胞内シグナル伝達経路の解明も進めている。記憶・学習に関わる神経活動で重要な働きを担うCREBのリン酸化レベルの増加傾向が確認できたほか、マウス海馬初代培養神経細胞をScg2由来神経ペプチドで刺激し、発現が変動する遺伝子についてAgilent Expression Array解析を試みている。今後再現性を確認する必要があるが、2倍以上の変動を示すものとして約1,000スポットがリストアップされている。 以上から、当該研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
恐怖条件付後のすくみ反応の計測では、個体差が非常に大きいため、現在得られている傾向について、個体数を増やしてさらに検証するとともに、以下の解析を進める。 (1)光環境がすくみ反応に及ぼす影響の確認:学習時の光条件は、恐怖記憶の形成やその後の想起に影響を及ぼすことが示されている一方で、Scg2は視交叉上核において高発現しており、行動リズム形成や光環境に対する応答への関与が示唆されている。Scg2 KOマウスでみられるすくみ反応の変化が、学習や想起時の光環境によって影響されるのか確認する。恐怖条件付け学習試験及び想起試験を、暗所環境(赤外線ライト)下にて実施し、通常の光条件下の場合と比較する。遺伝子型や遺伝的背景による差異についても確認する。 (2)Scg2由来神経ペプチド受容体の同定:Orphan GPCRパネル解析により得られた受容体候補遺伝子を発現ベクターにクローニングしてCOS7等の培養細胞で発現させ、Scg2由来神経ペプチド刺激に対する応答性を指標にして、真に受容体であるか確認する。また、これら候補が受容体でなかった場合には、Scg2由来神経ペプチドに対してリン酸化反応等の応答が明らかである海馬初代培養神経細胞、あるいは血管新生促進応答を示す血管内皮系細胞からcDNA発現ライブラリーを構築して、受容体検索を進める。 (3)Scg2由来神経ペプチドの入力に応答した細胞内シグナル伝達経路の解明:マウス海馬初代培養神経細胞をScg2由来神経ペプチドで刺激し、発現が変動する遺伝子群についてマイクロアレイ解析にて網羅的な検証を続ける。また、恐怖条件付前後のマウス海馬、あるいは扁桃体よりRNAを抽出し、発現が変動する遺伝子群についてマイクロアレイ解析にて網羅的に検索を行い、Scg2由来神経ペプチドで刺激した神経細胞での結果と比較する。
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Causes of Carryover |
恐怖条件付けに用いるScg2KOマウスは、本学付属動物実験瀬説内で自家掛合わせにて確保しているが、親マウスの育児放棄等のため想定していた数を確保できず、予定していた実験の一部を次年度に行なうこととしたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
Scg2KOマウスの維持・管理に係る飼料やチップ、恐怖条件付け等の行動解析に係る機器等の物品を購入する。 Scg2由来神経ペプチド受容体の同定や細胞内シグナル伝達経路の解析に必要な培養細胞、培養用試薬類、酵素類、器具類等を購入する。 必要なオリゴDNA、ペプチドの合成、並びにマイクロアレイ解析を専門業者に依頼する。
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Research Products
(1 results)