2016 Fiscal Year Research-status Report
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15K01842
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
岩瀬 克郎 千葉大学, 大学院医学研究院, 講師 (80322030)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 恐怖記憶 / 神経ペプチド / 光環境 / 遺伝的背景 / GPCR |
Outline of Annual Research Achievements |
学習時の光条件は、恐怖記憶の形成やその後の想起に影響することが知られている。当年度は、学習や想起時の光環境を暗環境(赤外線ライト環境)下にして実験を行い、通常の明環境下での結果と比較した。遺伝的背景がB6系統のマウスでは光環境が明環境の場合、音刺激をきっかけとした想起試験において、セクレトグラニンII遺伝子欠損(Scg2 KO)マウスのすくみ反応に抑制傾向が認められたが、暗環境(赤外線ライト環境)下でも、個体差が大きいため有意な差は認められないものの、すくみ反応はやや抑制気味となった。一方遺伝的背景がB6-129混合系統では逆に、暗環境下において、音刺激による想起試験でScg2 KOマウスのすくみ反応は亢進する傾向が認められた。海馬依存的な文脈的想起試験でも、B6-129混合系統を用いた暗環境での試験では、亢進を示すことが多かった。 Scg2由来神経ペプチドの一つであるセクレトニューリンは、薬理学的な解析から、GPCRが受容体として働くと予想されている。また、Scg2遺伝子は視交叉上核において高発現しており、概日リズム形成に関与することが示唆されていることから、データベース検索により視交叉上核で高発現しているOrphan GPCR遺伝子を受容体候補としてリストアップした。加えて、Orphan GPCRパネル解析の結果、Scg2由来神経ペプチド刺激に対して応答性が見られたGPCR遺伝子を、さらに受容体候補とした。これら受容体候補遺伝子を組み込んだ発現ベクターを、ホタルルシフェラーゼのレポーター遺伝子とともに培養細胞に導入し、Scg2由来神経ペプチド刺激に対する応答性をルシフェラーゼアッセイにて確認した。 また、Scg2由来神経ペプチドの入力に応答した細胞内シグナル伝達を明らかにする端緒として、マウス海馬初代培養神経細胞をScg2由来神経ペプチドで刺激し、発現が変動する遺伝子群をマイクロアレイ解析にて検索した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
電気刺激と音刺激の組み合わせによる恐怖条件付け学習、並びにその後の想起によるすくみ反応について、Scg2 KOマウスを用いた検証を進めている。恐怖条件付学習時、並びに海馬依存的な文脈的想起試験においては、現在までに、野生型とScg2 KOとの間に明らかな差は認められていないが、音刺激をきっかけとした想起試験で興味深い傾向が確認できている。B6系統のマウスにおいては、音刺激による想起試験でScg2 KOマウスはすくみ反応の抑制傾向を示すが、光条件を暗条件にした場合でも、Scg2 KOでは抑制気味であり、今後個体数を増やしてさらに検証する。一方で、遺伝的背景が異なるB6-129混合系統のマウスにおいては、通常の明条件では野生型とScg2 KOとで特に違いは見られないが、暗条件では、音刺激による想起試験でScg2 KOマウスにすくみ反応の亢進傾向が確認された。前年度までに得られていた、Scg2由来神経ペプチドが扁桃体での音条件との関連づけに関与している可能性がさらに裏付けられるとともに、遺伝的背景の違いによってScg2 KOが示す反応が逆転する要因にも関心が持たれるところである。 Scg2由来神経ペプチド受容体の同定については未だ同定に至っていないが、データベース検索等から幾つかのOrphan GPCRを候補として選別した。その候補遺伝子の一つで、ルシフェラーゼアッセイにより、Scg2由来神経ペプチド刺激に応答した10~20%程度のルシフェラーゼ活性の変化が確認されている。今後、細胞内カルシウムイオンの応答等を指標にして、検証を進める。 またScg2由来神経ペプチドの一つ、セクレトニューリンの作用を標的とした分子標的薬検索の端緒として、鶏胚漿尿膜上の血管新生を利用した実験系を立ち上げ、現在セクレトニューリン処理により血管新生が亢進する予備的知見も得られている。 以上から、本研究は概ね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
音刺激による想起試験等で現在得られているScg2 KOマウスのすくみ反応の傾向について、結果の信頼性を上げるため、個体数を増やしてさらに検証するとともに、以下の解析を進める。 (1)Scg2 KOマウスの心的外傷後ストレス障害(PTSD)治療への応用の検討:電気刺激と音による恐怖条件付け学習の後、学習時とは異なる波長の音で恐怖記憶の想起試験を行う。通常であれば安全と見なされるはずの波長の音に対するすくみ反応が、野生型とScg2 KOで異なっているか確認し、Scg2 KOマウスがPTSDのモデルマウスとして活用しうるか確かめる。 (2)Scg2由来神経ペプチド受容体の同定:データベース検索並びにOrphan GPCRパネル解析より得られた受容体候補遺伝子について、COS7、Neuro2a等の培養細胞で発現させ、蛍光カルシウムプローブを用いてScg2由来神経ペプチド刺激に対する細胞内カルシウムイオン濃度の変化を確認する。ルシフェラーゼアッセイの結果と合わせ、受容体として機能しうるか検討する。また、これら候補が受容体でなかった場合には、Scg2由来神経ペプチドに対する応答性が示されている血管内皮系細胞等からcDNA発現ライブラリーを構築して、受容体検索を進める。 (3)血管新生に対するセクレトニューリン関連ペプチドの効果の確認:セクレトニューリンは血管新生を亢進させる作用があることが報告されており、血管新生を指標とした実験系はセクレトニューリンの作用を調べる上で有効である。セクレトニューリンの作用を標的とした効果的なアゴニストあるいはアンタゴニストを検索する端緒として、鶏胚漿尿膜上にセクレトニューリンやその部分的ペプチド、変異ペプチド等を作用させ、血管新生への影響を確かめる。
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Causes of Carryover |
実験用Scg2KOマウスは、ヘテロ型の掛合わせによって確保しているが、育児放棄等のため想定していた数を確保できず、予定していた実験の一部を次年度に行なうこととしたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
Scg2KOマウスの維持・管理に係る飼料やチップ、恐怖条件付け等の行動解析に係る機器等の物品を購入する。 Scg2由来神経ペプチド受容体の同定や細胞内シグナル伝達経路の解析に必要な培養細胞、培養用試薬類、酵素類、器具類等を購入する。 必要なオリゴDNA、ペプチドの合成を専門業者に依頼する。
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Research Products
(1 results)