2015 Fiscal Year Research-status Report
マルチモーダル計測による共感情動発生・維持機構の解明
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15K01845
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
向井 秀夫 明治大学, 理工学部, 講師 (20534358)
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Project Period (FY) |
2015-10-21 – 2018-03-31
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Keywords | 情動 / 大脳辺縁系 / 神経回路 |
Outline of Annual Research Achievements |
情動は脳の内部から生じる生存機能の高度な表現であり、ストレスなどの現代社会における基本的な問題に対処する上でも極めて重要である。本課題では、『共感』の機構を発現・維持する情動神経回路の実体的解明を目指す。共感という情動は人間行動の基礎であり、近年社会的問題となっている精神疾患など、その障害は人が生きるのに必要な情報の取得に重大な問題をもたらす。その改善には、いかなる脳領域が共感を含む情動を作り出しているのかを解明することが大変重要であるが、そのためには現状の研究分野の垣根を越えた複数のレベルでの解明が必須である。申請者はこの未知の領域の機能の発現に対し、理論的な解析・実体的な神経回路の解明、ホルモン測定技術を含む新たな技術開発で解明に努めている。 2015年度(本研究は10月末採択のため半年余の期間)においては、実験的研究と共に進めている理論的考察をまず行った。脳の領域間について機能モデルは未だ数少ないが、その一つに古くから調べられているPapezの回路がある。本来情動を担う回路の候補として挙げられたものであるが、記憶の回路として海馬が着目されて以来、情動を担うネットワークとしての役割はややなおざりにされてきた。このネットワークが共感時に活動するとされる帯状回皮質を含むことに着目し、理論的検討により海馬からの乳頭体―視床前核(―前部帯状回)の回路が共感を含む情動のネットワーク機構の一端に関わっている可能性を示唆した。実験的研究の方面では、共感に関連する脳部位の帯状回の振動発生機構について検討し、グルタミン酸受容体刺激によって振動が起こせることを見出した。また近年共感に伴う様々な情動機能にとって重要であるオキシトシンの測定方法について検討した。未発表であるため詳細は発表予定の論文に譲るが、非侵襲的に測定できる体液のオキシトシンを精度よく測定する技術であり現在発表を検討している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は採択が2015年10月末であったため、研究の実質的実施期間は通常の期間に比べやや短く、まだ半年余りの経過である。しかしながらこの期間において、理論的検討により海馬からの乳頭体―視床前核(―前部帯状回)の回路が共感を含む情動のネットワーク機構の一端に関わっている可能性を示唆した。また実験的研究の方面では、in vitro標本を用いた帯状回のグルタミン酸受容体サブクラスの刺激による神経振動発生機構の解析を行っており、今後成果を発表する予定である。また人間での測定も可能な非侵襲的に測定できる体液のオキシトシンを精度よく測定する技術の開発を行い、この研究も発表予定があるなど、複数の方面からの研究を進めており、おおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画に沿って進める予定である。費用の支出の面では、理論的解析のための計算機、測定装置・部品の更新・入手などが研究上必要になることや、購入価格の変動などで設備・消耗品の数量の購入が十分行えなくなることが考えられる。その場合、予定している発表を来年度に変更するなどの対応を考えている。また、実験動物の使用については学内の倫理審査も通過し、現在飼育可能な状態であるが、飼育施設に病気などの問題が生じた場合などには倫理的問題をクリアした上で外部の共同研究先を場所として実験を行うことも考えている。
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Causes of Carryover |
本研究課題は2015年度期初からではなく、10月末に交付が決定したものであったことから、研究計画通りに進めても実施期間は未だ半年であるため、次年度使用額の助成金が発生したものである。また、研究実施期間である2015年度後半は研究計画にある理論的研究と実験的研究のうち、比較的費用支出の抑えられる理論的研究が主であったので、相対的に費用が抑えられた。また、本研究助成金は税を原資とする公的資金の支出であることをから、全体の支出を抑えるため、本助成金以外で既に購入済みの物品(解析に用いる計算機系消耗品など)でまかなうことができた分についてはそれらを使用することでできるだけ対応した。さらに、本学においては間接経費の最大半額を直接経費の目的の補助に使用することが可能であったので、その費用の支出も研究の目的に役立てることができた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
研究計画に沿って進める予定である。前年度から繰り越した分と2016年度の助成金は、今後研究計画内の実験的研究の遂行に相応の支出が見込まれていることに支弁し、研究を推進することに努める。費用の支弁の具体的要因としては、研究計画にあるように解析のための設備・消耗品、条件づけ装置や測定装置の部品の更新・入手、抗体や免疫化学的試薬、蛍光標識色素などをはじめとする消耗品類などが今後相当量必要になることが挙げられる。また本研究で用いる物品は外国から日本の代理業者を通じて購入する場合為替の変化による購入価格の変動などで設備・消耗品の価格の上昇などが考えられるが、できるだけ国内業者から調達を試みること、本助成金で入手可能な範囲で最大限の活用をすることなどで対応する。本研究助成金は税を原資とする公的資金の支出であることを十分踏まえ、費用の節減に最大限努めながら今年度以降も適正に使用したいと考えている。
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