2016 Fiscal Year Research-status Report
アーミッシュの宗教アイデンティティの形成と消費文化の相互関係
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15K01863
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
野村 奈央 埼玉大学, 人文社会科学研究科, 准教授 (10709588)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | アメリカ研究 / 物質文化 / 消費文化 / 宗教社会学 / 再洗礼派 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年9月に 明治大学駿河台キャンパスで開催された日本アメリカ史学会第13回年次大会のシンポジウム「文化論的転回とアメリカ史――『転回』以後を考える」にて、アーミッシュ社会における相互扶助と消費活動と宗教アイデンティの形成の関係についての研究を発表した。これまでの調査で収集したデータに加え、昨年度に米国ランカスターのアーミッシュ居住区で実施したインタビューや、10-30代の女性が参加した直接訪問販売(direct home sales)のパーティでの参与観察で収集したデータをもとに、アーミッシュ女性の日常生活における消費活動を詳細に分析した。本発表では、聖書に基づいた質素な生活を送るアーミッシュの女性が、直接訪問販売のパーティで消費をすることで、アーミッシュ社会における重要な価値観である「相互扶助」を実践していることを明らかにした。 シンポジウムでは、複数のオーディエンスから質問が寄せられ、今後は主流アメリカ社会における消費活動との比較研究をすることで、新たな理論的展開の方向性を展開することが可能であるという指摘を得た。本発表への反響から、アーミッシュ女性の日常的な消費活動を検討することで、宗教社会学のみならず、近代の社会・経済の編成過程にも新たな理論的展開が期待できることを確信した。本学会に加え、国際学会での発表も目指していたが、イギリスとフランスの学会での申し込みが却下されたため、当初より予定していた国内での発表となった。 本発表の内容を発展させた論文が、オンラインの学術誌New American Notes Onlineに掲載されることが決定している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度も、引き続き専門家と最新の研究動向や調査対象地に関する情報交換をしながら、現地調査の準備をすすめた。対象がアーミッシュであるという特殊性から、インフォーマントとの通信手段は専ら手紙による交流であり、またインフォーマントの都合により夏季に現地調査を実施することが不可能であったため、春季に現地調査を実施した。 春季の調査では、アーミッシュ・コミュニティにおける日々の生活の調査を実施した。まずチャリティを目的としたアーミッシュの若者が、ペンシルバニア州ランカスター郡から訪問するニューヨーク州ニューヨーク市で、現地調査を行った。 ペンシルバニア州ランカスター郡では、インフォーマントのアーミッシュの家庭に滞在しながら、彼/彼女らの消費活動や余暇活動に同行しながら民族誌学的な調査を行った。さらに、現地調査と並行して、収集したデータの分析方法について、現地の研究者であるウェストチェスター大学准教授ヤニカン・スマッカー氏(アメリカ史/物質文化研究)と意見交換を行った。 本年度実施予定をしていたアーミッシュ・コミュニティ内における消費活動の定点観測は、悪天候により実施することが不可能だった。しかし、インフォーマントの旅行に同行することが許され、余暇活動における消費活動の詳細を記録することができた。 以上の調査から、アーミッシュ・コミュニティにおける最近の余暇の流行への理解が深まった。また、インフォーマントの結婚が決まり、結婚準備のための消費活動に同行することができたため、貴重なデータを収集することができた。昨年度の調査に引き続き、ランカスター郡のアーミッシュ・コミュニティにおける消費活動および物質文化が急速に変化していることが明らかになった。また、アーミッシュ自身がその変化に無意識であることも確認した。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の調査結果を踏まえ、フィールドワークで収集したデータの分析および資料の精査をすすめながら、来年度以降も引き続きインフォーマントの消費活動に同行し、民族誌学的な調査を実施する。 具体的には、2017年11月に米国ランカスター郡のアーミッシュ・コミュニティで開催される結婚式に参加し、アーミッシュ社会における最も重要な祝祭において消費活動がどのように行われるのかを参与観察によって明らかにする。また、本年度実行することができなかった アーミッシュのアパレル会社の経営者への聞き取り調査も実施する。本研究の申請時には、3年目にはフロリダ州パインクラフトでの調査を予定していたが、今年度の調査結果を踏まえ、アーミッシュの余暇活動傾向の観察がより効果的なケンタッキー州ピーターズバーグへ調査地を変更する予定である。 これまでのフィールドワークの経験から、アーミッシュの意識調査を実施するには、従来の社会学・人類学的な聞き取り調査のアプローチでは、インフォーマントが調査者に強い拒否感を示すことが判明している。そのため、本調査では、マイクを使用したインタビューや質問票の使用は実施していない。アーミッシュの家庭に滞在し、家族と生活をともにしつつ、彼/彼女らの社会にできる限り溶け込みながら、エスノグラフィを作成する。 また、現地調査と並行して、国際学術誌に投稿する論文を執筆し、研究の発信に努める。
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Causes of Carryover |
当初の予定より文房具費を節約することができたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
ペンシルバニア州とケンタッキー州での現地調査の際に、アーミッシュ向けに発行されている教会の名簿、アーミッシュが経営する小売店や家具店ではカタログなど、日本では入手することが困難な一次資料を購入するために使用する。
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