2015 Fiscal Year Research-status Report
米国のブラック・ナショナリズムに関する実証的研究―シビック・ナショナリズムと人種
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15K01880
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Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
藤永 康政 山口大学, 人文学部, 准教授 (20314784)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 人種 / ナショナリズム / ブラック・パワー / 公民権運動 / アフリカ系アメリカ人 / 黒人 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究計画の初年度にあたる平成27年度は、4月12日から15日まで3日間、ウィスコンシン州歴史協会でロバート・F・ウィリアムス文書のリサーチから始まった。この文書にあるウィリアムスのオーラル・ヒストリー史料は、トランスクリプトにして1200頁にのぼる大部のものであり、この史料を入手できたことが同地におけるリサーチの最大の成果となった。 このトランスクリプトならびのその関連文献がもつ包括性は、藤永がこれまで検討を重ねてきたウィリアムスに関する1次史料にはない。かかる史料が見つかったことが主たる理由で、本年度は、藤永がこれまでも研究に従事してきたブラック・パワー運動関連の史料(学生非暴力調整委員会文書等)と相互につきあわせた検討を行いながら、ウィリアムスの運動と思想を整理することに集中した時間を割き、予定していた夏のリサーチは次年度以後に行うこととした。 このウィスコンシン州マディソンでのリサーチの後、藤永は、アメリカ歴史家協会(Organization of American Historian)の年次大会参加の機会を活用し、本研究の研究課題と問題関心を同じくするいくつかのセッション("American History from the Inside Out"; "Histories of Grassroots Networks")に参加するとともに、アメリカの研究者との情報交換を行った。この年次大会参加の成果として、1960年代後半以後の「ブラック・ナショナリズム」の興隆を検討するにあたっては、1950年代の白人至上主義の活性化という、時系列的に先行する条件を捨象することはできないということである。 なお、ウィリアムス史料研究の成果は平成28年度に論文にまとめる予定である。 また、本年度は、次年度以後に行う予定になっているブラック・パンサー党の調査についての準備を開始している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
【研究実績の概要】の欄でも述べているが、3カ年の研究計画中の初年度にあたる平成27年度では、今後の研究計画の抜本的見直しを行わなくてはならなかった。これに伴う本年度の研究計画の大きな変更のひとつがが、夏に予定していたニューヨークでのリサーチを次年度以後に延期したことである。また、当初計画にある、「ナショナリズム」の思弁的・理論的整理も未実施のまま終わっている。 このように研究を進めてきた最大の理由は、早々4月にウィスコンシン州歴史協会で調査したロバート・F・ウィリアムスの聞き取り調査関連史料が、これまで藤永が検討してきた二次文献の脚注から想像できる規模のものを大きく上回る大部のものであったこと、ならびにそれが、初期のブラック・パワー運動の国際性を考えるうで、きわめて包括的で深淵な意味合いともっていることが判明したからであり、本研究の目的を考えるならば、平成27年夏のニューヨークでの調査は時期尚早であり、この文書の検討に集中した方が、その後の研究がよりスムーズに進捗すると判断したからである。 くわえてまた、このような判断を行うにあたっては、ブラック・ナショナリズムに関する理論的問題点が藤永が想定していたものと異なっていたことも理由に挙げられる。当初、理論面を最初に整理することが重要だと考えていたが、代表的な「ナショナリズム」と大きく異なる特徴をもち、かつわが国で本格的には研究されていない「ブラック・ナショナリズム」をわかりやすく解明するにあたっては、むしろ実証を先行させる必要性を強く感じた。ウィリアムス文書の研究は、そのような実証研究の一歩である。 このように予定していなかった領域での進捗は確かにあるものの、当初計画のなかで未実施のものがあることは否めない。それゆえ、現時点では、進捗状況は「遅れている」と考え、次年度以後、この「遅れ」を取り戻すことを優先的課題のひとつとしたい。
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Strategy for Future Research Activity |
上に述べた理由から、本研究はすでに計画の大きな変更を行っている。それに伴い今後の研究計画は以下の通りに編み直した。 《平成28年度》①夏期にニューヨークのションバーグセンターで、Malcolm X Collection, Organization of Afro-American Unity Collection, Revolutionary Action Movement Collection, Amsterdam News などの黒人新聞の調査を実施する。②10月末に予定されているブラック・パンサー党結成50周年大会が開かれるのにあわせ、同大会に参加し、聞き取り調査を行う。③前年度のウィリアムス研究の成果を論文にまとめる;これまでの既刊の研究成果を書籍刊行を射程にまとめる作業に入る 《平成29年度》①ミシガン州デトロイトとアナーバーでの史料調査;先送りしていたナショナリズムに関する理論面の検討と整理。②書籍原稿の準備と完成。③場合によっては、本研究に必要な文書資料調査の補足・補完調査をアメリカで実施する。 研究の進捗が遅れているとして挙げた案件について最後に付言すれば、ニューヨークでの調査は平成28年度、ナショナリズムの理論的検討は平成29年度に実施することに変更している。
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Causes of Carryover |
【研究実績の概要】【現在までの進捗状況】で述べた理由から、2015年度におけるニューヨークでのリサーチを、次年度以後に延期することにした。それに伴い同リサーチに必要な旅費として計上していた予算は、そのまま残ったかたちになっている。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額は、延期したリサーチの旅費(ニューヨークでの史料調査)に使用することにする。
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Research Products
(2 results)