2016 Fiscal Year Research-status Report
米国のブラック・ナショナリズムに関する実証的研究―シビック・ナショナリズムと人種
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15K01880
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Research Institution | Japan Women's University |
Principal Investigator |
藤永 康政 日本女子大学, 文学部, 准教授 (20314784)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 人種 / ナショナリズム / ブラック・パワー / 公民権運動 / アフリカ系アメリカ人 / 黒人 / バックラッシュ / 保守主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
3カ年の研究計画の2年目にあたる平成28年度は、①引き続き前年度の最大の成果であるロバート・ウィリアムス文書の分析にあたり、②前年度に先送りしたニューヨークでの文書リサーチを実施し、③当初より計画していたブラック・パンサー党のアクティヴィストたちへの聞き取り調査の実行を進めた。これらすべての計画が、一部の予定を除き、おおむね順調に進んでいる。 まず①についてであるが、昨年度の報告書にも記した通り、同文書から引き出せる研究の課題は数多く、本研究のなかでもっとも重要なものになっている。続いて②は、予定通り、ニューヨーク市立図書館ションバーグセンターで、Malcolm X Collection, Organization of Afro-American Unity Collectionの文書リサーチに従事した。③は、50th Anniversary of the Founding of the Black Panther Partyに参加し、同党のアクティヴィストたちに面談して聞き取り調査を実施した。 このうち詳述すべきは③についてである。ブラック・パンサー党のアクティヴィストを集めた同様の"anniversary"は、15年前より5年おきに実施されているものであり、藤永はそのいずれにも参加している。平成28年10月20日から3日間にわたって実施された今次のものは、結党50周年と重なったことから、オークランド市の実業界や地元政治家たちの支援を受け、研究者やメディア関係者を招いたパネルが数多く組まれるなど、かつてない規模で開催された。それは、資料収拾のみならず、藤永の研究の視野を拡大し、その射程を整理・再検討する絶好の機会となった。 これらの当初の予定にしたがった研究とともに、平成28年度には、「トランプ旋風」によって可視的なものになってきた白人至上主義についても研究を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
まずは「やや遅れている」としたことの理由について記しておきたい。研究代表者の藤永は、平成28年4月より、山口大学人文学部から日本女子大学文学部へ移った。この異動に伴って、論文執筆に使う時間が当初の予定より若干減少したため、平成28年度に執筆する予定だった論文が一部未刊に終わることになった。 ただし、ニューヨークでの文書リサーチを昨年度の初頭に所期の予定を組み替えて平成28年度に移したのは、結果として功を奏したと言える。あいにく訪問先文書館のショーンバーグセンターは、リニューアル工事に伴い文書の閲覧時間に大きな制限が課されていたが、そのような環境下にあっても、このリサーチから得られたところは大きい。 また、同年度は、白人至上主義に関する検討に当初の予定以上の時間を割いた。これは、アメリカ大統領選挙における「トランプ旋風」と白人至上主義に関する学界内外での関心の高まりに応じた側面もあるが、基本的には、これに先立つ平成27年度の報告書に記した「1960年代以後の「ブラック・ナショナリズム」の交流を検討するにあたっては、1950年代の白人至上主義の活性化という、時系列的に先行する条件を捨象することはできない」という、本研究の過程で得た大きな気づきにしたがってのことである。 これら一連の研究は、藤永がこれまで行ってきた研究と統合させて徐々に公にしている。立教大学アメリカ研究所主催のシンポジウム報告(平成28年11月26日)、『現代思想』1月号での論文「アメリカ例外主義の終焉と黒人のまなざし」は、このような成果発表の一環であり、シンポジウム報告は、報告内容を敷衍して稿を改め、同研究所の紀要『立教アメリカン・スタディーズ』に近々掲載の予定である。また、朝日新聞に掲載されたインタビュー記事(平成28年12月23日号「耕論」)も、本研究と関連した内容のものである。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度の遅れは28年度で取り戻すことができており、平成29年度で終了を迎える全体の研究は充分遂行可能であると考えている。だが、上にも記したように、論文の公刊が一部未完遂に終わっていることからも、3カ年の最終年度は、成果論文の執筆、そして所期の目標である書籍原稿の完成に多くの努力を傾注することとする。 また、昨年度編み直した研究計画にしたがって、アメリカでの資史料調査も実行する予定である。今後のリサーチ、論文執筆によって変更の可能性はあるものの、現在のところ、当初の予定通り、ミシガン州デトロイトとアナーバーでの調査を行うとともに、これまでは「場合によっては」と考えていた資史料の補足・補完調査も、実施する予定にしている。このうち後者については、ニューヨークのショーンバーグセンターでの文書リサーチを予定している。また、歴史の現場の確認のため、ノースカロライナ州モンロー郡をはじめ、ブラック・パワー運動の当事者と関連の深い場所を訪れることも計画している。
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Causes of Carryover |
本務校が山口大学から日本女子大学へ移ったため、東京・山口市の往来のために計上していた旅費が残ることになった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
国内旅費の分は、最終年度での海外でのリサーチ旅費、ならびに関連書籍の購入費に充て、最大限有効に活用する。
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