2016 Fiscal Year Research-status Report
米国マイノリティ問題の総合的研究:マイノリティ研究と環太平洋的視点のリンケージ
Project/Area Number |
15K01891
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Research Institution | Tama Art University |
Principal Investigator |
李 里花 多摩美術大学, 美術学部, 准教授 (50468956)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
菅 美弥 東京学芸大学, 教育学部, 准教授 (50376844)
佐原 彩子 大月短期大学, 経済科, 助教 (70708528)
兼子 歩 明治大学, 政治経済学部, 講師 (80464692)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 地域間リンケージ / 環太平洋的視点 / 人種/人種分類 / 難民 / アメリカセンサス / ジェンダー・セクシュアリティ / 移民の帰属意識 / 移民政策とセンサスのリンケージ |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は、マイノリティ研究の学問的リンケージの構築を目的に、(1)国内のマイノリティ研究者と研究会を開催し、日本のマイノリティ研究の現状と課題について議論を重ねた。各回のテーマと講師は次の通りである。在日コリアン研究―慶応大学柏崎千佳子氏(4月29日於明治大学)、在日ブラジル研究―神奈川大学拝野寿美子氏(8月2日於明治大学)、難民研究―大妻女子大学久保忠行氏(11月18日於明治大学)。また(2)読書会を開催し、ジェンダー研究の環太平洋的リンケージについても知見を深めた(3月16日於明治大学)。さらに(3)個別事例について調査研究および研究成果の報告を各メンバーが次のように進めた。 ・李(代表):コリアン移民の舞踊史について日本と韓国で調査を実施した。研究成果を国際学会(ASA-in-Asia)や日本移民学会冬季大会、韓国における出版物等で英語・韓国語・日本語で発表し、国際的な発信に努めた。 ・兼子(分担):アメリカの同性愛権利運動に関して、人種および階級の視点から批判的に検討した論考を論文集に寄稿した。また、8月25日から9月5日にかけて米国サンフランシスコにて史料調査を行い、1950年代から70年代にかけての同性愛権利団体、特にアジア系アメリカ人ゲイ団体や黒人ゲイ団体などのニューズレターや機関誌を閲覧・複写した。 ・佐原(分担):阪南大学で開催された日本移民学会年次大会基調講演「『移民と難民』:いま移民研究に何ができるのか」で司会を務めた。また2016年6月、2017年2月にワシントンDC近郊のNational Archives IIで史料調査を行った。 ・菅(分担):1790年の第1回センサスにさかのぼり、定義が示されないなかでの「その他全ての自由人」の人々への世帯の形態、名前の記載等の調査の実態から、包括的人種政策としてセンサスが監視の役割を果たしていたのか、論証した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、マイノリティ研究に環太平洋的視点を投入することと、マイノリティ研究にリンケージを構築することを目指し、(1)研究会を通して国内外のマイノリティ研究者と対話を重ねてきた。また(2)国内外の学会や国際学会で報告を重ね、研究成果を発信するだけでなく、日本国内外の研究者とのネットワーク構築に努めた。さらに(3)個別事例についての実証的研究を次のように進めてきた。 ・李(代表):日本と韓国におけるコリアン舞踊のフィールドワークや資料収集を進め、コリアン舞踊が環太平洋地域においてどのように発展したのか、各国の状況を明らかにした。 ・兼子(分担):2016年度を通じて、1950年代から70年代にかけてのアメリカの同性愛団体の史料を、ある程度網羅的に収集することができ、一部の史料の分析を開始した段階である。 ・佐原(分担):アメリカでの史料調査により、難民政策の展開が第二次世界大戦以後の海外援助政策と連関していることが明らかになった。このような動向を日本だけでなくアメリカの学会でも報告することができた。 ・菅(分担):課題遂行に必須の手書きの調査票を1790年の「自由黒人」から時代・地域を横断して収集しデータベース化する作業を継続した。マサチューセッツ歴史協会でオリジナルの調査票を発見しほか、調査票実態があった現地でのフィールド調査を行った。 これらの進捗状況から、本研究は現在「おおむね順調」に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度にあたる平成29年度は、米国のマイノリティ問題を環太平洋的視点で行っている研究者を招聘し、(1)研究会を開催し、(2)合同で研究報告を行う予定である(アメリカ史学会シンポジウムにて)。これらを通してマイノリティ研究のリンケージ構築に向けて検証を進めると同時に、(3)マイノリティ問題の個別事例について各メンバーが調査と分析を進め、実証的研究の成果も発表していく予定である。各メンバーの調査内容や研究報告は次の通りである。 ・李(代表):日米韓におけるコリアン舞踊の歴史について国内外で調査を続け、舞踊史をめぐる地域間リンケージ構築を目指す。研究成果については、2017年6月に韓国政府主催の在外同胞学術会議や、2017年9月のアメリカ史学会シンポジウムにおいて報告する。 ・兼子(分担):2016年度に収集しきれなかった史料を閲覧・複写するために米国サンフランシスコで調査を行う。史料調査と同時並行して、これまでに収集した一次史料を分析して、論文化していくことを目指したい。 ・佐原(分担):史料調査を踏まえて、難民政策を外交政策のみならず海外援助政策との関係について分析し、2017年6月に行われる日本移民学会年次大会や、7月に行われる若手アメリカ研究会で報告する予定である。 ・菅(分担):1860年および1870年のセンサスで記録が残った日本人、特に「若松コロニー」について現地調査を行い、日本側の移民査証、新聞などの一次史料等も調べ、日本人の移住とセンサスにおける日本人への調査実態とのリンケージを検証していく。
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Causes of Carryover |
最終年度にシンポジウムの開催を予定し、当初は全予算をシンポジウム開催に使用する予定であった。しかしアメリカ史学会の年次大会においてシンポジウムを開催することが可能となったことや、海外から招聘を予定していた研究者への招聘費用が当初より少なくなったこと(招聘人数が減ったことや日本滞在中の負担が減ったこと)等から、シンポジウムにかかる予算が少なくなった。その分、各メンバーが進めている個別事例についてのさらなる調査分析に予算を補填し、個別事例の検証を深めることとした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度の予算は、主に(1)アメリカ合衆国を拠点とするマイノリティ研究者の来日費用(旅費)。(2)研究会ゲスト講師の謝金。(3)各メンバーが進める個別事例の実証的研究にかかる経費(各メンバーの研究内容や使用計画については「今後の研究の推進方策」に記載した)、である。
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