2015 Fiscal Year Research-status Report
在米エルサルバドル系とメキシコ系の政治意識・行動とエスニック・アイデンティティ
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15K01895
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Research Institution | Ferris University |
Principal Investigator |
中川 正紀 フェリス女学院大学, 文学部, 教授 (70295880)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | エスニック集団間の比較 / トランスナショナル関係 / 国際労働移動 / アイデンティティ / 定量的研究 / グローバル化と国民主権 / 在外国民の本国政治参加 / 国籍と国民意識 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究代表者は、在米エルサルバドル系の本国および米国の選挙政治・「非選挙政治」(労働・社会運動やボランティア・コミュニティ活動)に対する関心度・参与度に関するアンケート調査データから、特に本国生まれの二重国籍者のアイデンティティを考察した。 関心・参与度は両国の政治に対して同等に高く、本国選挙での投票目的に一時帰国する者も約6分の1いる。一方、本国生まれの二重国籍者の約85%が、たとえ米国で持家や市民権を取得しても米国市民意識を持たない人たちである。理由は、その半数が将来に本国への永住帰国を希望し、市民権取得を米国政治に参加するための一種の手段と見なす傾向が強いから、と分析できる。すなわち、両国の国籍を持ち、政治関心・参加度は両国に対し同程度に高いながら、心情的にはおそらく本国にノスタルジアを感じ、条件が整えば本国へ永住帰国したい者が大半を占める。この成果の一部は、『フェリス女学院大学文学部紀要』第51号(2016年3月)掲載の論文で扱っている。 連携研究者(中川智彦)による、すべての法的身分の本国生まれを対象にした本国政治での投票行動に関する意識の分析では、選挙レベル別で、71%(複数回答)が大統領選挙(単独でも地方選挙1%に対し29%)への参加を希望していた。 一方で、在外国民の本国選挙での投票制度に否定的な回答率は、内戦前夜から動乱期(1970年代後半から1990年代初め)に渡米した者、およびその時期に10歳代後半から20歳代であった世代において、相対的に高く、全般に男性の方が高いことが判明した。また、2001年より成人国民に取得義務のある統一身分証明書(DUI)は本国選挙での投票にも不可欠なものであるが、その取得者と非取得者全体では、同選挙制度に否定的な回答率に差はないものの、前述の世代では両者とも他の世代層別の平均を上回り、特にその非取得者で顕著に高かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2015年8月のロサンゼルスでのアンケート調査では、部分的に3名の調査補助員の協力により、回答の完答率・正確さは格段に増したが、最終的な有効回答部数は151部となった。同年3月のサンフランシスコでの調査の有効回答数と合計しても227部と、統計データとしては少ない印象である。 2016年2月末から3月初旬にかけてのロサンゼルス滞在の時点では、今年8月の調査に向けた補助要員の応募者数が極端に少なかった。理由として、設定した募集時期が早すぎたかもしれないこと、および今年は大統領選挙やリオデジャネイロ・オリンピックがあり、人々の関心がそちらに向いてしまっているとも考えられること、などが挙げられる。 対策として、募集期間を6月末まで延長し、かつ募集要項を地元大学の教員を通じて配布してもらうこととした。今後の成り行きを注視していきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
もし2016年8月の調査に向けた調査要員の募集で目標数の補助要員が思うように集まらなかった場合は、2か所予定している調査会場を1か所にしぼることとする。すでにその1か所にはテント付きのかなり広いスペースを確保してあり、長机があるほかに椅子を多めに用意すれば、一度に回答してもらう人数が増え、それで回答数のかなりの増加が見込めるものと考える。今回は回答数の増大を目指して、アンケート質問数の削減も対策として取っている。 今後、研究代表者の中川正紀は、2016年6月の日本ラテンアメリカ学会第37回定期大会(京都外国語大学)で、「在米エルサルバドル系二重国籍者のトランスナショナリズムと政治意識」と題する報告を行う予定である。また、2015年中に収集したデータのうち、まだ論文執筆で使っていないものの分析結果を用いて、2016年7月に査読付きの学術雑誌に論文投稿するつもりで、現在準備中である。一方、連携研究者の中川智彦も、アイデンティティと入国年ともに回答した本国生まれを対象とする本国政治への参与意識分析について、同様な要領で論文投稿するつもりであり、現在準備に取り組んでいる。
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