2017 Fiscal Year Research-status Report
インド農村部からの労働移動と社会集団(ジャート)の関係:ビハール州の実証分析より
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15K01899
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
小田 尚也 立命館大学, 政策科学部, 教授 (30436662)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 労働移動 / ビハール / ジャート / インド |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は農村部における労働移動選好を土地所有の側面から検討した。土地は農村社会において最も重要な所得源であり、労働移動を含む様々な家計の判断に大いに影響する。まず土地と農業所得の関係である。土地なし農家や農地サイズが小さい零細農家・小農にとっては、農業からの所得では日々の生活を支えるには十分でなく、家族の誰かを出稼ぎに出すインセンティブは高い。一方、農地サイズが増加するにつれ、農業所得が増加し、出稼ぎ労働の魅力は徐々に低下し、大規模農家にとって、労働移動は決して魅力ある所得源とは言えない。次に、土地と労働移動の費用の関係である。土地なし農家や零細農家・小農にとって、労働移動の費用負担は容易ではない。土地所有サイズが大きくなるにつれて、その費用負担が容易となる。これは上で述べた土地所有サイズが増加するにつれて、労働移動を選択する可能性が低減するのとは逆方向の影響を及ぼすこととなる。 ビハール州農村の家計調査データを使って、上述の土地所有と家計レベルにおける労働移動の関係について、労働移動選択を非説明変数、土地所有サイズおよびその二乗を説明変数として用いたプロビット分析を行った。土地所有サイズの2乗項は土地所有と労働移動決定の間の非線形な関係を捉えるために取り入れた。推計の結果、土地所有サイズは労働移動決定に負の統計的有意な影響を及ぼす一方、二乗項はプラスの有意な影響を及ぼすことが判明した。これは土地無し家計や土地所有サイズが小さい家計ほど労働移動の確率が高く、土地所有サイズが増加するにつれ、その確率が低下すること、さらに家計が所有する土地がある一定規模を超えると、労働移動の確率が低下に転じることを意味している。つまり土地と労働移動に関する非線形の関係が存在することを証明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
両親の介護に時間を要したこと、また調査対象地の経済状況が研究費申請時と比較すると大幅に変化し、ここ2,3年に急速な経済の進展が見られ、かつてのようなビハールの農村部からインド大都市圏への労働移動という単純な構造からより労働移動パターンが複雑化し、それらを改めて検討する必要性が生じているため。
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Strategy for Future Research Activity |
研究期間の1年延長が認められたことで、2018年度は、ビハールでの現地調査で質的なインタビューを実施し、これまでに蓄積している量的データの分析をより深化させる。またビハール州の近年の経済発展に伴う労働移動パターンの変化についても現地調査で検証する。成果報告については、国際学会や日本南アジア学会を予定している。
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Causes of Carryover |
研究計画実施の遅れに伴い、現地調査等を次年度に実施する必要性が生じたため。 具体的な使用は、現地調査費用および学会参加費として120万円、リサーチアシスタント雇用に18万円、残りは研究に必要な物品の購入とする計画である。
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Research Products
(4 results)