2016 Fiscal Year Research-status Report
ガリラヤ地方とレバノンのキリスト教徒によるアラブ・ナショナリズムの再考
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15K01905
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Research Institution | National Museum of Ethnology |
Principal Investigator |
菅瀬 晶子 国立民族学博物館, 研究戦略センター, 准教授 (00444141)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | アラブ・ナショナリズム / キリスト教徒 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度おこなった研究実績の内容は、以下のとおりである。 (1)資料収集とその精読、研究対象の絞り込み 昨年度までにイスラエルおよびパレスチナ自治区、さらには本年度エクセター大学およびベルリン自由大学で収集したナジーブ・ナッサールの著作物(おもに彼が主筆をつとめたカルメル紙の記事と、その再録書籍)を精読し、その内容分析を進めた。彼の活動の内容はシオニズムについてのパレスチナ・アラブ人コミュニティに対する啓発活動が中心であった1908~1914年と、パレスチナ各地を視察し、コミュニティの将来を見据えて産業の育成に取り組もうとした1919~1930年の活動に大別される。このうち後半部分で、当時のパレスチナ各地の教育機関や産業の様態について、詳細な記録を残していることがわかった。また、1920年代後半はナジーブの妻サーズィジュが責任編集をおこなった「女性のページ」の登場とともに、カルメル紙全体に女性解放運動への傾倒が強くみられるが、これに呼応してナジーブが「男性のページ」という一種のパロディコーナーをもうけ、男女同権社会構築のための啓発活動をおこなっていたこともわかった。ナジーブとサーズィジュの活動は不可分であり、次年度以降はサーズィジュを調査対象に含めることにした。
(2)パレスチナ・アラブ人コミュニティにおけるナジーブ・ナッサールおよびグレゴリオス・ハッジャールに対する認識の調査 グレゴリオス・ハッジャールについては、地元の研究者による講演会が開催され、キリスト教徒を中心に認知度が広まっている。しかしながら、彼がガリラヤ大司教在任中に記録を残していたとされる年報については、依然行方不明のままであり、研究の存続は事実上困難であることがわかった。一方、ナジーブ・ナッサールについては、ほぼ忘却されていることが確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
資料収集は順調に進み、それにともない内容の精読も進んでいるが、当初の予定とはやや異なる方向に着地点を求めることになりそうである。
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Strategy for Future Research Activity |
実績概要でも述べたとおり、情報収集が進むに従い、調査対象を変更する必要が出てきた。今後はナジーブ・ナッサールとグレゴリオス・ハッジャールの比較よりも、ナジーブ・ナッサールとその妻サーズィジュの活動を検証することに主軸を置くこととする。また、パレスチナ現地におけるナジーブ・ナッサールの業績への関心があまりに低いため、データベースを作成・公開する意義があまりないことが推測される。このため、ナッサール夫妻のアラブ・ナショナリズムにおける位置づけを、彼らの宗教的背景(非ムスリム)であることに主眼を置きつつ、論文として発表することを今後の最大の目標とする。
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