2015 Fiscal Year Research-status Report
労働の社会的編成のジェンダー分析-主体的アクターとしての保育者に着目して
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15K01921
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Research Institution | Shimonoseki City University |
Principal Investigator |
萩原 久美子 下関市立大学, 経済学部, 教授 (90537060)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 労働運動 / ケア労働 / 女性職 / 保育 / 公共セクター / ジェンダー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は公的保育制度の再編によって誘発されたローカルなケア供給体制の変化とそこで生起するケアと労働をめぐるジェンダー間・内部の分業の再編過程を解明することにある。本年度は保育職の経済的・社会的地位および職種としての集団的発言力・影響力の現状を労働組合への組織化を中心に実証的に把握する作業を行った。 その作業を通じ、第一に、保育士の職種としての組織化状況を、マクロ統計および各種組合調査をもとに推計した。公共セクターを中心とする安定的な組織化が担保されていた日本の保育職の組織化基盤が90年代後半から弱体化し組織率を大幅に下げたことがわかった。 その知見を土台に、第二に、自治労、自治労連、保育福祉労、地域ユニオンへのインタビューと第一次資料の分析から、組織化の課題や保育士の労働実態への取り組みを考察した。特に公民格差是正措置の廃止等、保育士の労働条件にかかわる政策的介入に着目し、90年代半ばからのいわゆる待機児童対策のもとで、公共セクターを基盤に組織化された保育士に対する社会的批判が醸成され、民間開放の圧力によって組織化された保育士の集団的影響力が既得権益層の抵抗という形で周辺化される環境が作られていったのではないかという見解に至った。 以上の作業から保育士という女性の安定的な専門職という側面がいかなる形で解体されていったのかというプロセスの一端を解明し、ジェンダー平等政策が推進される過程で進行するケア労働と雇用労働をめぐる労働配置の再ジェンダー化プロセスを把握することができた。また、知見をまとめるにあたって、伝統的な労働組合における「担い手」「参加」概念をジェンダー視角から再検討し、非正規、女性、若者の再組織化に向けた実践事例と課題を検証したほか、子ども子育て新支援制度の導入過程に関する考察を論文化した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は福島県での現地調査との日程調整がうまくいかず、初年度に実施予定していたフィールドワークを実施することができなかった。これまでの調査から、公的保育制度の再編過程で、公共セクターの保育者の処遇を保育サービスの財政上のコスト問題に回収し、地域の女性が再び低コストのケア労働力の源泉とされている実態の一端はつかんでいた。しかし、フィールドワークが未実施のため、子ども子育て支援新制度導入によってどう変化したのを検討にまではいたっていない。無論、保育士の組織化を糸口にその点に接近する検討作業を行い、いくつかの知見にいたってはいる。しかしながら、公的保育制度の再編によって誘発されたローカルなケア供給体制の変化とそこで生起するケアと労働をめぐるジェンダー間・内部の分業の再編過程を解明という本研究の目的の柱の一つであるので、作業が未着手という点でやや遅れているとの評価をした。
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Strategy for Future Research Activity |
第一に、初年度に実施する予定であった、福島県県北でのフィールドワーク及びインタビューを実施する。子ども子育て支援新制度導入後の福島市および居住制限区域や警戒区域における現時点での保育サービスの再編過程を自治体等へのインタビューから把握する。保育サービスの供給という点から、公的保育制度としての新制度の特徴、意義、限界を検討する。 この点と絡んで、第二に、労働組合における保育士確保、労働条件向上の取組について情報収集する。特に、焦点化するのはローカルなレベルでの保育サービス供給の再編過程での保育者の集団的発言力と交渉力である。新制度によって変化するローカルなケア供給体制において、保育士はどのような実践の主体としてあるのか。検討を進める。 第三に、公務員保育士の賃金を民間に準拠して大幅に見直した大阪市を事例に、保育士の賃金水準の参照点の問題、および子ども・子育て支援新制度の施行にともない導入された保育士資格を有しない補助的職種の課題を追及する。 以上のアプローチを通じ、(中央・地方)政府がケア供給にかかわる労働力を国家・市場・家族・中間的地域集団/NPO等へと振り分ける労働政策、労働の再配置の過程の分析へと作業を進める。
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Causes of Carryover |
データ整理と成果発表を優先したため、作業日程の確保が難しく、予定した国内フィールドワークが未実施となったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本年度未実施となった国内フィールドワーク(福島県)の旅費、および研究会報告旅費(東京)に充当する。
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