2015 Fiscal Year Research-status Report
「マタニティ・ハラスメント」の原因と被害者のキャリア形成への影響
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15K01931
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
川口 章 同志社大学, 政策学部, 教授 (50257903)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 妊娠 / 職場 / ハラスメント / キャリア形成 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度は、調査票の作成、調査の実施、データ分析を行う予定であった。それらについては、おおむね予定通り実施した。調査結果の概要は、研究代表者である川口研究室のホームページにアップロードしている。 主な発見は以下のとおりである。妊娠中に受けたマタハラの可能性のある行為として、最も多いのは、「心ない言葉をかけられた」で11%、続いて、「時差出勤や通勤緩和措置等の要求が認められなかった」の10%、「軽作業への転換の請求が認められなかった」9%、「解雇や契約打ち切り、自主退職への誘導をされた」9%、「望まない残業を強いられた」7%、「体調不良を訴えても帰宅できなかった」7%、「重労働や危険な作業を強いられた」6%などである。 しかし、これらの行為を受けた人すべてが、それを不当な扱いだと感じているわけではない。これらの行為を受けた人のうち、それを不当だと感じた人の割合は、「心ない言葉をかけられた」83%、「時差出勤や通勤緩和措置等の要求が認められなかった」の59%、「軽作業への転換の請求が認められなかった」59%、「解雇や契約打ち切り、自主退職への誘導をされた」69%、「望まない残業を強いられた」67%、「体調不良を訴えても帰宅できなかった」67%、「重労働や危険な作業を強いられた」64%などである。このように、マタハラの可能性のある行為を受けても、それを不当と感じる人と感じない人がいる。これらの違いがどこから生じ、それがその後のキャリア形成や幸福度にどのような影響があるのかについては、現在分析中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
マタニティ・ハラスメントに関する調査票を作成するうえで参考となる情報を得るために、平成27年5月20日にマタニティハラスメント対策ネットワーク代表の小酒部さやか氏を研究代表者が勤務する大学に迎えて、講演会を行った。また、講演会の後、聞き取り調査を行った。同氏は、自身がマタハラ被害者であると同時に、多くの被害者、法律関係者、研究者などと交流があり、マタハラの現状を最もよく知っている人物である。マタニティハラスメント対策ネットワークとは、聞き取り調査以降も、定期的に連絡を取り合い、情報を交換している。 平成27年の8月から12月にかけて、「在職中の妊娠・出産に関する調査」の調査票を作成し、平成28年年3月7日から3月17日にかけて調査を実施した。調査方法は、オンライン調査を採用した。 主な調査項目は、1)本人の基本情報:年齢、学歴、婚姻状態、子どもの数、健康、生活満足度、幸福度、2)本人の就業に関する情報:就業状態、職業、勤労所得、労働時間、賃金、勤務先企業の属性、3)妊娠したときの情報:年齢、婚姻状態、子どもの数、就業状態、職業、勤労所得、労働時間、勤務先企業の属性、4)マタハラに関する情報:妊娠時における職場での処遇・上司や同僚からの扱い、処遇・上司や同僚からの扱いに対する被害者意識の有無、5)配偶者に関する情報:年齢、学歴、就業状態、職業、勤労所得、労働時間である。 調査は、2段階で行った。第1段階の調査で、10年以内に就業中に妊娠し、出産した経験ある女性を抽出し、第2段階で、上記の項目の調査を行った。調査結果の概要は、研究代表者である川口研究室のホームページにアップロードしている。その後、調査結果の分析を実施し、現在も継続中である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、調査結果を統計解析によって分析する。分析方法は以下の通りである。1)マタハラ被害に遭いやすい女性の属性やマタハラが発生しやすい職場の属性を明らかにする。そのため、マタハラ被害に遭った女性を1、遭っていない女性を0とするダミー変数を作成し、それを被説明変数とする。また、妊娠時の年齢、学歴、就業形態、労働時間、賃金、子どもの数、勤務先の女性従業員割合、女性管理職割合、業務量などを説明変数とし、重回帰分析を行う。2)マタハラが、健康、キャリア形成、幸福度に及ぼす影響を分析する。現在の健康度、職位、給与、幸福度などの変数を作成し、それらを被説明変数とする。また、女性の年齢、子どもの数などをコントロール変数、マタハラ経験を主要な説明変数とし、重回帰分析を行う。分析結果を論文にし、日本フェミニスト経済学会、日本経済学会、日本ジェンダー学会などの学会やセミナーで報告する。 アンケート調査では明らかにならない、職場の人間関係や雰囲気、人事制度、キャリア形成に対する考え方などを明らかにするために、マタハラ被害者や企業の人事担当者に聞き取り調査を行う。企業の人事担当者に対しては、マタハラ被害者はいるか、被害者はどのような女性か、どのような職場で被害が発生するのか、対策はとっているかについて尋ねる。マタハラ被害者に対しては、どのような被害に遭ったのか、加害者は誰か、会社の対応はどうだったか、どのような職場だったのか、自身のキャリア形成についてどのような考えを持っているのかなどについて尋ねる。
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Causes of Carryover |
当初の計画では、Web調査に190万円ほど費やす予定であった。しかし、複数業者から見積をとった結果、1社が予想外に安価な見積額を提示したため、約77万円が未使用のまま残った。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
計画では、平成29年度に2回目のWeb調査を実施することになっている。2回目の調査は、1回目より規模を縮小して行う予定であったが、27年度の未使用額を2回目調査に使用することで、より大きな規模の調査を行いたい。
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