2017 Fiscal Year Research-status Report
「マタニティ・ハラスメント」の原因と被害者のキャリア形成への影響
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15K01931
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
川口 章 同志社大学, 政策学部, 教授 (50257903)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | マタニティーハラスメント / 正社員 / 雇用契約 / 職務範囲 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度に実施したWeb調査「在職中の妊娠・出産に関する調査」を使用し、どのような女性がマタハラに遭いやすいか、どのような職場でマタハラが発生しやすいかを分析した。その結果、正社員は非正社員よりマタハラに遭いやすいことが明らかになった。また、マタハラの種類によっては、学歴が低い人、勤続年数が短い人が被害に遭いやすいことが分かった。職場の特徴として、退社時刻になっても周りの人が残っていると帰りにくい職場でマタハラが発生しやすく、職務が明確で業績や成果を評価する職場ではマタハラが発生しにくいことが分かった。これは、雇用主と労働者の間で、職務や労働時間が明確に決められていないという日本的雇用システムの特徴が強い職場ほどマタハラの発生リスクが高いことを示している。 論文を1編執筆し、専門誌に投稿した。論文では、正社員が非正社員よりマタハラ被害に遭いやすい点に着目し、その原因を回帰分析とBlinder-Oaxaca要因分解法とFairlie要因分解法によって明らかにした。その結果、非正社員は家事・育児に専念するため自主的に出産前に退職する者が多いこと、正社員はたとえ自分の仕事が終わっても定時に退社しにくいこと、正社員の職務範囲が曖昧であることの3つの要因が、正社員と非正社員のマタハラ被害リスクの差のほとんどを説明することがわかった。逆に、正社員の学歴が高いこと、勤続年数が長いことは、非正社員とのリスクの差を縮める方向に作用している。 当初の予定と比べて、マタハラがその後のキャリア形成に及ぼす影響についての分析がまだできていない。また、当初の予定では、平成29年度に2回目のWeb調査を行う予定であったがそれもできなかった。これらは、平成30年度に実施したい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
平成28年度と29年度の2年間、本学の政策学部長に就いていたため、研究計画策定当時に予定していたほど研究に時間が取れなかった。平成29年度は、当該科研に関連する研究の口頭発表を2回行ったにすぎず、論文を専門誌に投稿することができなかった。学部長の任期は平成29年度で終わったため、平成30年度は遅れを取り戻す予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は、前年度まで研究を遅らせていた原因がなくなったため、十分な研究時間を確保することが可能になった。現在、正社員が非正社員よりマタハラ被害を受けやすい点に着目し、その理由について、職務範囲の曖昧さの視点から分析した論文を執筆し、専門誌に投稿中である。今後は、さらに、本人及び職場の「女性性/男性性」とマタハラ発生リスクの関係、マタハラ経験の有無とその後のキャリア形成の関係についても分析を進める予定である。論文は国内外の学会やセミナーで発表したい。 さらに、前回のWeb調査で不十分だった点を改善した調査票を作成し、8月に再度Web調査を行う。改善すべき点として、1)前回の調査で明らかになった、職務範囲の曖昧さについてさらに詳細な質問する、2)本人の「女性性/男性性」について詳細に質問する、3)妊娠時の幸福度や生活満足度について詳細に質問する、4)流産や中絶の有無について質問する、5)勤務先のワークライフバランス施策、男女均等化施策の有無について詳細に質問する、6)夫の収入について質問する、7)企業に組合があったか否か、本人が労働組合員であったか否かについて質問するなどがある。
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Causes of Carryover |
平成28年度と29年度は、学部長に就いていたため、会議や出張が多く、十分な時間を研究に費やすことができなかった。学部長の任期は終了したため、今年度は昨年実施予定だったWeb調査と研究発表のための旅費などに支出したい。
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