2017 Fiscal Year Annual Research Report
The Reconstruction of the Qualitative Theory of Perception
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15K01980
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
佐藤 透 東北大学, 国際文化研究科, 教授 (60222014)
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Project Period (FY) |
2015-10-21 – 2018-03-31
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Keywords | 質的知覚論 / 知覚因果説 / 感覚間の協働 / 間主観的保証 |
Outline of Annual Research Achievements |
最終年度は、(1)外界における知覚原因(例えば音源における振動の生起)から実際の知覚者における知覚の発生までの時間差の存在が、外的対象の質的性質(音)を知覚者の主観内に位置付ける、いわゆる「知覚因果説」へ導く大きな要因になっているにもかかわらず、従来の知覚論では、この問題が適切に考察されてこなかったことを確認した上で、(2)こうした時間差の存在は、音、色、手触りといった質的性質を欠く物的対象という物体観を支持するが、自然科学的事実として確認されるこの時間差の存在と、外界の対象を質的なものとして見る人の自然な物体観、自然観とをどのように調和させるべきを検討し、新しいモデルの構築が改めて試みられた。 まず人の外界の知覚に関する基本的に性格の異なる二種類の描写が区別されたが、その一つは、いわゆる客観的描写で、上記事例では音源と音の知覚者とをいわば横からみる第三者的実験者からの描写であり、この音源の振動や空気の振動、その知覚者への到達といった物理的事実からなるこの描写は誰でもが確認できるものであって、仮に横描写と呼んでおいた。もう一つは、知覚者本人からの外界の描写であり、この描写内容は音や色といった質的性質を外界に認めるものだが、基本的に第一人称的なもので知覚者個人にのみ属している。これは縦描写と呼ばれた。外界に質的性質を取り戻しつつ、知覚の因果関係の科学的説明と調和させるには、縦描写を基礎にしつつも、聴覚や視覚といった一種の感覚のみに着目せず、諸感覚間の協働、および間主観的な保証という視点がが必要であることが示された。また、こうした検討を通じて(3)外界の空間的諸位置は、可能的な知覚の中心とみなすべきことも明確にされた。 研究期間全体を通じての成果は、9月9日、新潟大学東京事務所で開催された加藤尚武元日本哲学会長を囲む研究会で好評の内に発表され、さらに精緻化の作業を続けている。
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