2017 Fiscal Year Research-status Report
定言命法を実現するための技術的仮言命法の可能性 ―その理論と実践―
Project/Area Number |
15K01983
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Research Institution | Fukushima University |
Principal Investigator |
小野原 雅夫 福島大学, 人間発達文化学類, 教授 (70261716)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 哲学カフェ / 哲学プラクティス / 子どものための哲学 / 定言命法 / 技術的仮言命法 / カント |
Outline of Annual Research Achievements |
2017年度は当初の計画通り、計11回の「てつがくカフェ@ふくしま」と1回の「びえもカフェふくしま」を開催することができた。長らく一緒に活動してきた世話人1名の引退を契機に「趣意書」や「対話のルール」の見直しを行い、2011年以来6年以上にわたる活動を踏まえて哲学カフェの根本ルールを新たに作り直す作業を行った。 年末には福島県教委からの依頼を受けて、県内の高校生を集めて「福島でよく生きるとは?」をテーマに哲学カフェを開催した。そのときに参加してくれた高校生が、年度末に開催された「てつがくカフェ@ふくしま特別編2018」にも来てくれて積極的に発言してくれる等、哲学カフェの運動が福島の地に広まり定着しつつあることが感じられた。 これらの活動を検証する研究として、「哲学カフェ@法政哲学会 市民とともに哲学するとは?」(齋藤元紀、梶谷真司共著、法政哲学会編『法政哲学』第13号、2017年、所収)ならびに「〈3.11〉後の『公共』とカント的公共性の闘い」(日本カント協会編『日本カント研究18』知泉書館、2017年、所収)が公刊された。なお前者の論文は、哲学カフェ@法政哲学会の前半の、執筆者3名による対話部分のみを収録したものだが、後半の参加者全員による哲学カフェの様子を記録したものが、法政哲学会のウェブサイトにアップされており、市民とともに哲学対話を行うことの意義について深い考察がなされている(https://philos.ws.hosei.ac.jp/gakkai/20160528taikai/cafe2016.pdf)。 さらに10月に開催された日本倫理学会第68回大会のワークショップ「東日本大震災から見えてきたこと(5)」において「避難と帰還をめぐる分断 ―「てつがくカフェ@ふくしま」における対話より―」の提題発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
【研究業績の概要】の欄に記したように、てつがくカフェ@ふくしまの実践は若干の軌道修正を行いながらも順調に続けられている。特に、「対話のルール」を作り直すことができたことによって、てつがくカフェ@ふくしまという場を設けるにあたって何が重要なのか、優先順位はどうなっているのか等を、参加者の方々とともに考え直すことができたことは大きな前進であった。 また、こうした実践を検証する理論的考察に関しても、哲学カフェという手法の意義を問い直したり、カントの定言命法や技術的仮言命法といったものとの関連で哲学カフェを捉え直したり、3.11という大きな問題状況と関連づけて対話の中身に立ち入って分析したりと、さまざまな観点から問題を深めていくことができた。 なお、【研究業績の概要】の欄には字数の関係で書くことができなかったが、カント実践哲学の意義を簡潔にまとめた論文「道徳法則と法の定言命法」(牧野英二編『新・カント読本』法政大学出版局、2018年、所収)を公刊した。この論文では哲学カフェなどの具体的な技術的仮言命法について触れることはできなかったが、仮言命法の根幹に置かれるべき定言命法が、一般に解されるような形式主義的、心情主義的な産物であるばかりでなく、人間の具体的な実践(技術的仮言命法)とリンクしうるものであることを論証した。本研究の根幹を支える視点を提供することができたと思われる。 以上により、2017年度に関しては「当初の計画以上に進展している」と評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度の報告書の本欄では、子どものための哲学を実践していきたいと書いた。おかげさまで福島県教委から高校生相手の哲学カフェを開催する話をもらうことができたし、県南教頭会の会合でも、学校現場での哲学カフェを宣伝することができ、いくつか興味を持ってもらっている。また福島大学学内で哲学カフェを行うということに関しても、2019年度のカリキュラム改革時より問題探究科目として「哲学カフェ」が開講されることが決定された。2018年度はその準備として、学生ファシリテーターの養成に努めていきたい。2018年度は本研究の最終年度であり、ここまでの成果を踏まえた報告をまとめていくとともに、次の研究計画を練り上げて新たなステップへと繋げていきたい。
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Research Products
(3 results)
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[Book] 新・カント読本2018
Author(s)
小野原雅夫(共著、牧野英二編)
Total Pages
384
Publisher
法政大学出版局
ISBN
978-4-588-15089-0