2017 Fiscal Year Research-status Report
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15K01988
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Research Institution | Kokugakuin University |
Principal Investigator |
藤野 寛 國學院大學, 文学部, 教授 (50295440)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | アドルノ / 美学 / 倫理学 / 『否定弁証法』 / 『美の理論』 / 『美学講義(1958/59)』 / 『美学講義(1961/62)』 / ゲオルク・ベルトラム |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は二本の柱の上に成り立っている。 第一に、西村誠氏と申請者を中心にのべ11人のメンバーでほぼ月に一度のペースで午前、午後の部に分かれて「美学研究会」を開催し、アドルノの『否定弁証法』『美の理論』『美学講義(1958/59)』を原典講読しつつ、ディスカッションしている。今年度は、4、5、6、7、9、10、11、12、1、2、3月に合計11回の研究会を行なった。(その内、9月、3月には二泊三日の合宿を行った。)本年度は、4年計画の本研究の三年目に当たり、「アドルノの美学」を共通テーマとする論文集を参加メンバーにより上梓することが当初より最終目標として設定されているので、二度の合宿では、そのための準備として、各自が論文草稿を持ち寄って発表し、相互批判に付するということが実践された。 もう一方の柱は、ベルリンのヴァルター・ベンヤミン・アルヒーフに所蔵され、訪問者には閲覧と筆写が許されるアドルノの遺稿の内、1961/62年の『美学講義』を閲読の上で筆写するという作業を継続することであるが、申請者は今年度も8月にベルリンに滞在し、3週間にわたってこの作業に携わった。この講義は、1961年の夏学期と、1961/62年の冬学期に週二回のペースで合計約30回にわたってアドルノが行なったものであるが、今回の滞在で、夏学期の講義はすべて筆写し終わり、冬学期の講義の筆写に取り掛かることができるに至っている。 加えて、本研究では、アドルノ美学の研究において興味深い実績を示しておられる若手研究者をわれわれの研究会にお招きし、共同研究の場を持つことを目標としているが、近年この分野でめざましい研究成果を公表しておられる Georg・Bertram 教授を、申請者は8月のベルリン滞在時にベルリン自由大学に訪ねて面談し、2019年3月に東京にお招きし講演していただくことで合意が成立した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
アドルノの美学は、従来、遺著『美の理論』を中心にその研究が進められてきたが、この書は恐ろしく難解に書かれているため、その研究は困難を極めた。それが、『美学講義(1958/59)』がEberhard・Ortland氏による詳細な編註を付して公刊され、『美学講義(1961/62)』も閲読可能となって、研究状況は著しく改善されている。本共同研究も、そこから大いに裨益しているのであって、相対的に高い研究水準に達していると自負している。研究成果を論文集の公刊という形で世に問うことを本研究の一つの目標として掲げているわけだが、今年度は、二度の合宿で参加メンバーが各自の草稿を持ち寄り、相互の批判を受けることを通して各自の研究成果を共有することも果たされ、最終目標に向けて着実に前進していることが確認できた。とりわけ、参加メンバーの関心が、音楽、美術、文学、哲学と多岐にわたっていることも、アドルノという研究対象に鑑み、本共同研究の強みをなしていると考えられる。 他方、ベルリンのベンヤミン・アルヒーフでのアドルノ『美学講義(1961/62)』の閲読、筆写の作業は、こちらも着実に進展を見ているとは言えるものの、さらなるスピードアップが望ましいことも、また確かである。というのも、本研究に認められた時間は、あと一年を残すのみとなっており、1961・62年の冬学期の講義をすべて筆写することは、あと一度のベルリン滞在をもってしては容易でないことが予想されるからである。さらなるベルリン滞在の可能性を探ることを、検討課題としたい。
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Strategy for Future Research Activity |
2018年度は、4年計画の本共同研究の最終年度のあたる。過去3年間に行ってきたことを継続することが、課題の基本となる。 すなわち、まず第一に、アドルノの『否定弁証法』『美の理論』『美学講義(1958/59)』を原典講読しつつ、ディスカッションするという基礎研究の継続である。 他方で第二に、ベルリンのヴァルター・ベンヤミン・アルヒーフに所蔵されている、アドルノ『美学講義(1961/62)』の閲読、筆写もこれまで通り、さらに進めたい。 加えて第三に、最終年度であるので、11名の参加メンバーによる論文集の刊行を実現したい。9月に予定している合宿で原稿の最終確認を行い、10月上旬には完成原稿を出版社に渡すことが目標となる。 第四に、2019年3月に、ゲオルク・ベルトラム教授(ベルリン自由大学)の日本招聘を実現し、少なくとも二度の講演会を持ちたい。
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Causes of Carryover |
2018年度にゲオルク・ベルトラム教授(ベルリン自由大学)を招聘するために、2017年度給付の助成金を節約したため。
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Research Products
(3 results)