2020 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K01990
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
大須賀 史和 横浜国立大学, 大学院都市イノベーション研究院, 教授 (30302897)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ロシア / 言語哲学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究計画では、20世紀初頭のロシアにおける言語哲学的な議論である「名の哲学」の研究、特にソ連時代初期に独自の体系的記述を目指したA.ローセフの哲学の研究を目的とし、同時代の諸外国における哲学分野の研究成果の受容等も考慮に入れつつ、ローセフの構想の内実と今日における意義を検討することを主要課題としている。 今年度はこれまでの研究成果の発表を行う予定であったが、新型コロナ感染症対策のための業務量増大によって本研究計画に充てられる時間が大幅に減少したことから、一部の公表にとどまった。一方で、これまでの研究成果から一定期間離れざるをえなかったことで、むしろローセフ哲学の構成について見直すきっかけが得られた。 ローセフは、古典哲学に示された世界観や人間観を基盤とし、音楽などの芸術とも共通する表現とコミュニケーションの形式について考察し、名前に代表される言葉の本質的な構造を解明しようとした。名を中心とする言葉は、それが表す対象と結びつけられた無味乾燥な記号ではなく、人間によって多層的に理解された物の姿そのものとして存在し、関係する多様な出来事の語り、すなわち歴史性が織りなす神話を常に随伴させている。これがローセフの基本的な言語観であり、言語哲学的構成を大きく規定してもいる。 その成立機序として、集合論における実無限概念や創作の主体性をめぐる議論などが先行しており、それらはこれまで想定していた以上にローセフ哲学の構成に大きく寄与していることが明らかになってきた。すなわち、世界を数学的、美的に捉える視点が言語哲学的構成にも織り込まれており、言語という存在を、それが使用される人間の生全体との関連で捉える総合的観点を形成しているということである。 ローセフ哲学の構成をより立体的に描き出す糸口を得ることができたことから、最終成果にはそれらの論点も織り込む予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度は新型コロナウィルス感染症の拡大に対応するため、勤務校でのすべての授業を遠隔で実施することとなり、その準備や授業後のフォローなども含めてこれまでとは異なるプロセスの構築を余儀なくされ、業務時間の大半を費やす必要が生じた。また、休業期間中も入試その他の業務においてやはり各種の変更が必要となり、年間を通じて本研究課題の遂行に当てる時間がほとんどない状態に置かれた。 次年度は今年度ほどの混乱は発生しないと予想されることから、研究計画の最終年度として適切な成果発表を行う予定であある。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画では、最終年度に海外で開催される学術会議などでの報告やそこでの質疑応答などを通じて本研究計画において蓄積した成果の検証とブラッシュアップを行う予定であったが、海外におけるコロナ感染症がどのような推移を見せるか、流動的な要素が多いため、研究書などの形態での成果発表に切り替える予定である。
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Causes of Carryover |
新型コロナ感染症対策に関する渡航制限等により、当初予定した海外での成果報告が不可能となったことで、旅費として計上していた予算が執行できなかったことが最大の原因である。次年度も同様の事態が継続する可能性があるため、成果報告書の印刷などに振り向ける予定である。
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