2022 Fiscal Year Annual Research Report
Study on Ontological Linguistic Philosophy in Modern Russia
Project/Area Number |
15K01990
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
大須賀 史和 横浜国立大学, 大学院都市イノベーション研究院, 教授 (30302897)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ロシア / 言語哲学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究計画では、20世紀初頭のロシアにおける言語哲学的な議論である「名の哲学」の研究、特にソ連時代初期に独自の体系的記述を目指したA.ローセフの議論について、同時代の諸外国における哲学分野の研究成果の受容等も考慮に入れつつ、その構想の内実と今日における意義などを検討することを主要課題とした。 ローセフによれば、名を中心とする言葉は、それが表す対象と結びつけられた無味乾燥な記号ではなく、人間によって多層的に理解された対象の姿を内包する構造を持つ一つの存在として捉えられる。この構造は、対象の意味的な理解を構成する多様なカテゴリーが名や言葉の中にあるという客観主義の立場から考えられており、それらカテゴリーがプラトン主義的な弁証法的アプローチによって演繹的に導出されていることも大きな特徴である。 本研究計画では、このようなローセフの言語哲学的構成の成立機序として、古典哲学研究と並行して行われていた音楽や他の芸術における表現形式についての検討が大きな役割を果たしていたことに注目した。彼は音楽などを一定の構造として捉え、それが数的・集合論的に理解可能であることを示すと同時に、その様々なカテゴリーをプラトン主義的な弁証法的アプローチによって演繹する試みなども行なっており、言語哲学的な議論との明らかな連動性を示しているからである。 こうして、ローセフは言語や芸術、神話など、人間の生全体と密着した表現に関わる分野を存在論、数学、美学などの多様な観点から捉える哲学的構成を確立しようとしていた。その観点に立てば、名や言葉は単に何らかの対象を表すだけでなく、対象が関係する多様な出来事の語り、すなわち神話などのナラティヴによる世界理解をも可能にする構造と持つものとして捉えられる。このようなローセフの哲学的構成の全体像と言語哲学的議論の位置付け、芸術形式に関する議論との連関が明らかになったと考える。
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