2016 Fiscal Year Research-status Report
在宅医療を中心とした調査をもとにした現象学的な行為論および間主観性論の試み
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15K02000
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
村上 靖彦 大阪大学, 人間科学研究科, 教授 (30328679)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 現象学 / 在宅医療 / 虐待 / 精神科医療 / 介護 / 質的研究 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度はフィールドワークとしては訪問看護師など何人かの看護師へのインタビューを行うとともに、地域において行われている虐待に関わる母親の回復プログラムにおける参与観察とファシリテーターへのインタビューを行った。また定期的に看護師を中心とした実践者の研究会にも参加し、在宅医療についての知見を深めている。さらに、当事者研究を中心とした精神医学領域における地域の活動にも関わり、とりわけ10月には当事者研究全国交流集会を勤務校において組織した。 これらの活動を通して、在宅医療の現場については看護師の主体化と連動した患者の側の(弱い)主体化のメカニズムが小さな欲望と享楽を中心としてスモールステップで行われていることを発見した。その際に、医療者が「変化の触媒」あるいは「持続の触媒」として患者・利用者をサポートしているその構造を発見することになった。 成果としてはとりわけ単著『仙人と妄想デートする--看護の現象学と自由の哲学』(人文書院)を公刊し、そのなかで地域において活動する精神科看護師や看取りを行う訪問看護師の実践の分析を行っている。この本の中ではこれらの看護師の活動を支える実践の「ローカルでオルタナティブなプラットフォーム」を理論的な発見として提示している。この他に、虐待に関わる母親に関するフィールドワークについても、『臨床心理学』誌と『現代思想』誌に論文を公表している他、フランス、スペイン、ベルギーにおいて在宅医療の実践分析に関する学会発表を行い、ベルギーで論文を発表するなどの成果をあげることができた。 以上のフィールドワークと論文執筆の成果をもとにして、現在在宅医療と地域における虐待に関わる母親の回復支援についての単著をそれぞれ執筆中であり、来年度以降出版する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は、精神科における訪問看護や慢性期の訪問看護についての考察を含む単著を出版し、また論文も複数発表している。そして海外においても論文の発表および三盆の学会発表を行った。 また狭義の訪問看護のみならず当初の予定を発展させる形で地域における虐待・社会的養護にかかわる研究にも着手できている。これらのデータのぶんせこも着実に進んでおり、次年度以降も順調に成果を発表できる見通しである。そのため『当初の計画以上に進展している」と判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
在宅医療についてはここまでの2年間で十分なデータを取ることができたので、最終年度に当たる来年度は単著の執筆に専念する予定である。ただし、卓越した専門看護師へのインタビューを行う予定であり、そのなかで在宅医療についてもさらなる治験が積み重なることを期待している。 地域における虐待をした母親のサポートについてのフィールドワークが軌道に乗り始めた。今後はさらにひろく虐待をめぐる地域・在宅のさまざまな支援者(児童相談所、養護施設、里親)などに取材する計画を立てていく予定である。すでに虐待をした母親のサポートについては来年度に一冊単著を出版する予定であるが、今後さらに綿密なフィールドワークを行った上でより大規模な著作・論文を執筆してゆきたい。 また精神科医療については医療というよりも広い範囲で当事者研究を含めた地域での活動に焦点を当てて取材してゆきたい。当事者団体とのコンタクトも増えてきており、今後論文化に向けて努力していきたい。
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