2015 Fiscal Year Research-status Report
カントの超越論的哲学とメルロ=ポンティの現象学の比較研究
Project/Area Number |
15K02005
|
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
圓谷 裕二 九州大学, 人文科学研究科(研究院), 教授 (60227460)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | アプリオリとアポステリオリ / 基礎づけ主義 / 相対主義 / 歴史主義 / 多元論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、カントの超越論的哲学とメルロ=ポンティの現象学を比較検討することによって、近現代哲学の基本動向を見定めることである。近現代哲学は、一方では、究極的基礎づけ主義として、他方では、歴史的相対主義の立場から基礎づけ主義へのアンチテーゼとして、というように二つの潮流をもっているが、本研究はこの相反する二つの立場を超克することを目的としている。 基礎づけ主義とは、存在論や認識論、あるいは倫理学や価値論、さらには美学・芸術論の諸領域において、究極的原理やアプリオリな原理を探求してその原理に基づいてこれらの哲学的諸領域を論拠づけようとする立場のことであり、哲学史的に見れば、デカルトに始まり、カント、ドイツ観念論、フッサールに至る超越論的哲学の流れに顕著に見られる立場である。他方、反基礎づけ主義は、真理や存在や価値の問題に関して、基礎づけ主義のように一義的でアプリオリな原理に基づいて接近するのではなく、多様な観点を許容しながら多元的に接近しようとする立場であり、それゆえこれは、遠近法主義的ないし多元主義的な相対主義とか、あるいは、歴史的時間軸に重きを置く歴史主義的相対主義と呼びうる。 本年度は、研究全体の見通しを獲得するために、研究の原理論と方法論の確立に努めた。具体的には、メルロ=ポンティによるカント哲学に対する批判的解釈を彼の前期から晩年に至る著作のうちに探り、その意義と限界を際立たせたが、それは次の三つの観点からなされた。第一に、カントのアプリオリとアポステリオリの区別に対するメルロ=ポンティの批判の妥当性の検討であり、第二に、カント哲学における「超越論的」という概念に対する考察であり、第三に、なぜメルロ=ポンティが、『純粋理性批判』の「分析論」よりも「弁証論」を高く評価したり、さらには『判断力批判』における構想力を重要視するのかという問題を考察した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
カント哲学における鍵概念である「アプリオリ」と「アポステリオリ」の二元論的区別の妥当性を、メルロ=ポンティ哲学の立場から再検討し、カントのアプリオリ主義の独断性を暴露する視点を確保することができた。 しかしながら他方、メルロ=ポンティ自身の内にもアプリオリ主義を認めることができ、そしてその場合のアプリオリ主義とは、従来の超越論的哲学におけるアプリオリ主義とはどのように異なっているのかを解明することが、本研究の目的にとって非常に重要な問題であることにも気づくことができた。メルロ=ポンティのアプリオリ主義とは、歴史的アプリオリ主義であり、あるいは多元論的ないし両義的アプリオリ主義とも呼びうるものである。もちろん、このような呼び方は、従来の二元論的思考法からすれば形容矛盾と見なされるのだが、しかしながら、まさにメルロ=ポンティのこのような独自のアプリオリ主義のうちにこそ、近現代哲学における基礎づけ主義と歴史的相対主義の対立を克服する道が開かれることを突き止めることができた。この洞察は今後の研究にとって非常に重要なものである。
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度は、研究の原理論と方法論の確立を目的としたが、今後は、この原理論と方法論を踏まえながら、具体的に、理論哲学、実践哲学、美学芸術論の各領域において、カントの超越論的哲学とメルロ=ポンティの現象学とを比較検討しながら、基礎づけ主義と歴史的相対主義の対立の克服を、これら諸領域に即しながら記述するつもりである。 理論哲学においては、何よりも、カントの理論哲学の核心である超越論的統覚と、メルロ=ポンティの自我論との比較検討が肝腎である。前者とは異なり、後者の根本的特徴は、自我を「世界内存在」として認めることであり、そしてこのことによって、他者論や、現在を超えた過去論が重要な意義をもつに至る。 また、実践哲学の領域では、カントとメルロ=ポンティの対立の架橋として、ハンナ・アーレントの政治哲学を手がかりにしたいと思っている。ただ、この点については、目下のところ具体的な方策はないので、今後の課題である。 美学芸術論に関しては、カントとメルロ=ポンティの比較が、そもそも、本研究の目的である基礎づけ主義と相対主義の対立の克服という課題において、どのように位置づけられうるのかという問題自体が生じてくると予想される。今後の研究の進捗状況に期待するというのが目下の状況である。
|
Causes of Carryover |
次年度使用額については物品(文献図書)が年度内に購入できなかったためである。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額については、次年度において文献図書の購入に充てる予定である。
|