2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K02009
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Research Institution | Aichi University of the Arts |
Principal Investigator |
中 敬夫 愛知県立芸術大学, 美術学部, 教授 (80254267)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 西洋哲学 / 現象学 / 他者問題 / 場所 |
Outline of Annual Research Achievements |
われわれの研究課題「他性と場所」が行おうとしているのは、いわゆる他者問題を、「他者の他性」と「神の他性」という二つの問題圏に分け、両者相互の関係ならびに両者と自我との関係を、それら〔他者、神、自我、それらの関係〕がそこにおいて成り立つような「場所」という観点から考察しようとする、一種の現象学的研究である。そのさい神を或る場所において出会われるような絶対他者とみなす考えは捨て、むしろ神それ自身を一つの「場所」とみなすような考えを深化してゆくことが、本研究の究極目標となる。 平成27年度にはわれわれは、フッサール、シェーラー、ハイデッガー、サルトル、メルロ=ポンティ等のいわゆる「20世紀の古典的他者論」について論じてきたのだが、平成28年度には当初の予定を超えて、①「神の他性と他者の他性――デカルトの『無限』の観念とレヴィナスの他者論」という、400字詰め換算にして約470枚の原稿と、②「他性の場所――レヴィナス倫理学と相互性の問題」という、同じく400字詰め換算で約320枚の原稿を仕上げ、そのうち①に関しては約9分の1サイズの要約ヴァージョンを、「神の他性と他者の他性――デカルトとレヴィナスにおける『無限』の観念」という表題のもと、『愛知県立芸術大学紀要』No. 46に掲載した。 ①はレヴィナスも多々援用するデカルトの「無限」の観念を手掛かりに、初期・中期・後期のそれぞれにおけるレヴィナスの「他者の他性」と「神の他性」の関係に関して批判的に検討し、②はとりわけレヴィナスの「非対称性の倫理学」が孕む様々な問題点について考察しつつ、彼の説く「非対称性」や「非相互性」はむしろ或る種の「対称性」や「相互性」を前提としなければ成り立たないことを証示して、それらの根底に「場所」や「空間」を見る。こうした諸研究はおそらく世界的に見ても稀であり、その独自性と意義とを有するとわれわれは信ずる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、平成28年度は「神の他性と他者の他性――デカルトの『無限』の観念とレヴィナスの他者論」という論文を仕上げるだけの予定だったのだが、その続編「他性の場所――レヴィナス倫理学と相互性の問題」という、もともと平成29年度に書くつもりだった原稿も、平成28年度中に脱稿することができた。それゆえ平成27年度内に仕上げておいた「20世紀の古典的他者論とその問題構制」という論文を第一章とし、さらには平成28年度に作成した上記二本の論攷をそれぞれ第二章、第三章としてそこに加えて、平成29年度中〔おそらく8月〕には『他性と場所。Ⅰ――《自然の現象学》第五編』という三つの章から成る著書を、萌書房から公刊することがすでに決定されている――本書は400字詰め換算にして1100枚を超える大著であって、さらにはフィヒテと西田における「他性と場所」について論ずるはずの著作が、3年後ないし4年後くらいには『他性と場所。Ⅱ――《自然の現象学》第六編』という表題を持つ続編として、上梓される予定ともなっている。それゆえ後者の準備期間を十分に確保したという意味でも、平成28年度中に二本のレヴィナス論を完成させたということは、大いに意味のあることであった。 それゆえわれわれは平成27年度には「おおむね順調に進展している」という報告を行ったのだが、平成28年度には掛け値なしに「当初の計画以上に進展している」と答えることができる。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画では平成29年度にはレヴィナス倫理学についての批判的検討を行い、平成30年度にはフィヒテ研究へ、そして平成31年度には西田研究へと進む予定だったのだが、しかし平成28年度中にすでにレヴィナス研究を完結させることができたので、平成29年度から平成31年度にかけての3年間は、フィヒテにおける「他性」の問題〔とりわけいかにして一から他が成立しうるのかという問い〕の検討と西田における「場所」の研究〔とりわけ「他性」と「場所」との関係についての究明〕の両方に捧げることができることとなった。実質的にはフィヒテ研究と西田研究は並行して行われることになるはずだが、ただし論文の執筆時期という点では、両者のあいだに若干の時間の位相差を予想している。 すなわち現段階では、平成29年度には初期フィヒテの『知識学』〔『全知識学の基礎』と『新たな方法による知識学』を中心に、『知識学、あるいは哲学一般の概念について』や『知識学の原理による自然法の基礎』、『知識学への第一序論』、『知識学への第二序論』等を含めて〕において、平成30年度の前半には中期・後期のフィヒテの『知識学』において、とりわけ「非我」、「他者」、「神(絶対者)」の三者の他性と「自我」との関係という問題について集中的に考察し、論文化したいと考えている。 また平成30年度の後半と平成31年度には、西田幾多郎における「他性」と「場所」の問題についての本格的な検討に着手して、論文へと仕上げたいと思う。筆者はすでに『西田幾多郎全集』(旧版)はすべて読了し、筆者なりの観点から幾つかの点で西田とは異なる考えを抱き始めてはいるのだが、それらはまだ「本格的」な形では書かれてこなかった。それゆえ今回の科研費助成による諸研究の最終年度には、これまでの筆者の考えを検討し直し、総括的な仕方で、五年間の研究の集大成となるような著作を準備したいと考えている。
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Causes of Carryover |
1冊平均が56790円で全巻40冊以上という、高価すぎて私費では購入困難なフィヒテ全集を、可能な限り買い揃えてゆこうというのが、筆者の物品購入の一貫した方針だったのだが、残額51218円では、もう1冊購入することができなかった。そこで平成28年度内にその他の図書を購入するよりは、その分を平成29年度に回して、出来るだけ多くのフィヒテ全集を買い集めてゆこうとしたのが、今回助成金を余したことの理由である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度も旅費で海外研修を行い、残額は、平成28年度からの繰越分も含め、可能な限りフィヒテ全集を買い揃えてゆくのに用いたいと考えている。
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Research Products
(1 results)