2015 Fiscal Year Research-status Report
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15K02014
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Research Institution | Tohoku Gakuin University |
Principal Investigator |
小林 睦 東北学院大学, 教養学部, 教授 (20292170)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 現象学 / フッサール / 記憶 / 想起 / 連合 / 精神医学 / ジャネ / 解離 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は、現象学における「連合」概念が、〈記憶〉という意識の働きにおいて果たす役割を明らかにする作業を行なった。そのための主要な課題となったは、以下の2点である。 ①まず、フッサール現象学において提唱された「連合〔=連想〕(Assoziation)」、「過去把持(Retention)」、「想起(Erinnerung)」、「再想起(Wiedererinnerung)」などの概念について、フッサールの諸著作のうち、『受動的綜合の分析(1918-1926)』(Hua.XI)第三部「連合」、『時間意識についてのベルナウ草稿(1917/18)』(Hua.XXXIII)第6部「再想起の現象学」を中心に、検討することを試みた。特に、「連合」とかかわる諸概念のうち、「対照」「触発」「覚起」「対化」などのあり方について、フッサールの著作を読み解く作業を行なった。②次に、「連合」概念にかんする現象学的な先行研究として重要な、ホーレンシュタイン『連合の現象学』を精読し、ミルやヴントなどの要素心理学における心理学的「連合」、ブレンターノにおける「根源的連合」、フッサール現象学における超越論的「連合」について、概念史的な観点から、その異同を確認する作業に従事した。 以上の研究成果の一部は、『現代哲学キーワード』第10章「人間」(有斐閣双書)として発表された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記①の作業については、当初は『受動的綜合の分析(1918-1926)』(Hua.XI)第三部「連合」、『時間意識についてのベルナウ草稿(1917/18)』(Hua.XXXIII)第6部「再想起の現象学」だけでなく、『表象・像・想像(1898-1925)』(Hua.XXIII)補遺も含めて研究を行なう予定であったが、このテクストにおける「記憶」や「連合」の記述が未整理な部分があるため、この文献を十分精査することはできなかった。 上記②の作業については、計画通り、ホーレンシュタイン『連合の現象学』を精読し、「連合」概念の歴史的変遷をたどることにより、論者による「連合」概念の異同を確認することができた。 以上から、若干の遅れはあるものの、研究はおおむね順調に進展していると言うことができる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は、〈記憶の障害〉である「解離」現象から、人間の意識の統合を可能にする〈記憶〉の機能を明らかにすることが目標となる。そのための主要課題は、以下の2点である。 ①まず、19世紀末から20世紀初頭にかけて、先駆的な研究を行なったP.ジャネが、「解離(dissociation)」という現象を、どのように理解していたのかを確認する作業を行なう。ジャネの解離論は、現代の精神医学的な解離研究の重要な源泉となっているため、そうした作業は現代の解離研究を理解するために欠かせないからである。具体的には、『心理学的自動症(L’automatisme psychologique)』において、〈記憶〉や〈人格〉の統合不全と定義される「解離」現象の内実を精査することが課題となる。また、ジャネの先駆性に関するエランベルジェ(エレンベルガー)の諸研究(『無意識の発見』『著作集』等)を参照しつつ、フロイトとは異なるジャネの解離論の意義を再評価することも必要となる。 ②次に、現代の精神医学における解離研究の成果を精査する作業を行なうことが目標となる。第一次世界大戦以降、北米や欧州では、戦争や自然災害によって引き起こされる「解離性同一性障害(Dissociative Identity Disorder:DID)」という症状が報告されるようになった。こうした時代背景のもと、近年の欧米では(そして日本でも)解離研究が大きく進展しているため、本研究では、それら現代の解離研究のうち、特に重要な病態理論として、F.パトナムの学説(「離散的行動状態モデル」)およびヴァン・デア・ハートの学説(「構造的解離理論」)について、その内容を分析することを行ないたい。
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Causes of Carryover |
486円の残額が発生したが、少額であり本来の計画とのズレはごくわずかであるため、繰越金として処理をした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
H28年度の通常軽費に加算して、予定通り消化する。
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Research Products
(2 results)