2015 Fiscal Year Research-status Report
医学研究者の追加的ケアの責務-部分委託モデルの検証と国際正義論への接続
Project/Area Number |
15K02021
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
林 芳紀 立命館大学, 文学部, 准教授 (90431767)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 追加的ケア / 偶発的所見 / 部分委託モデル / 研究倫理 |
Outline of Annual Research Achievements |
開発途上国で実施される医学研究の場面で発生する追加的ケアの問題に関して、現在その有力な考察枠組と目されているH・リチャードソンの部分委託モデルに着目し、その有効性の検証と限界の画定を試みた。平成27年度は、以下の二点を検討した。 1 研究者の追加的ケアの提供義務や偶発的所見への対処義務の基礎付け理論として有力視されている二つのモデル、部分委託モデルと専門職モデルを比較検討し、これら二つがゲノム科学研究、とりわけバイオバンクなどから提供された試料を二次利用する研究で発見される偶発的所見への対処義務に関して、各々どのような含意を有するかを考察した。部分委託モデルでは、バンクから二次利用の研究者に対して試料が配布される際に、被験者の健康の一部を配慮する責任もまた委譲されていると考えられるため、二次利用の研究者の特別な対処義務を根拠付けることができる可能性がある。それに対して、専門職モデルでは、被験者に対する研究者の責務の根拠が研究者―被験者関係の存在に求められるため、試料提供者である被験者との直接の関係を持たない二次利用の研究者の対処義務を根拠付けることは困難であることが解明された。 2 部分委託モデルでは、どのような場合に研究者が追加的ケアの提供責務を負うかは、射程と強度という二つのテストを通じて確定される。しかし、これに対してはかねてより、その射程の狭さが批判の的とされてきた。そこで、この射程の限定をめぐる論争の論点整理を行い、研究者の追加的ケアの責務に関する理論構築を推し進めるにあたり、今後どのような問題が問われなければならないのかを考察した。その結果、部分委託モデルの提唱者もその批判者も、追加的ケアの責務に関わる複数の関連要因の間の道徳的な優越性を十分に根拠付けられておらず、両者ともに大きな課題が残されていることが確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度は、部分委託モデルと専門職モデルとの比較検討を通じて、部分委託モデルの相対的な有効性の評価を試みることを目的とし、その比較検討の成果を口頭発表として提示することができたが、それ以後に生じた最新の議論状況を反映させる必要性を鑑みて、論文投稿するまでには至らなかった。以上を勘案し、現在までの進捗状況はおおむね順調であると自己評価している。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度以降は、搾取や不正義など、途上国臨床研究の文脈で懸念されている研究倫理上の問題に焦点を合わせた研究を予定しているが、部分委託モデルそれ自体の妥当性をめぐって新たな議論が開始される萌芽も見受けられるため、最新の議論の進展状況を追跡しつつ、必要に応じて研究の順序を入れ替えるなどして柔軟に対応することを視野に入れている。また、平成27年度は必ずしも成果の公表が進まなかったため、今後は成果公表の積極的な推進を図る所存である。
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Research Products
(1 results)