2018 Fiscal Year Research-status Report
フッサール身体論の倫理学的展開:身体行為のなかでの非自覚的自己と責任の所在
Project/Area Number |
15K02025
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Research Institution | Ishikawa National College of Technology |
Principal Investigator |
鈴木 康文 石川工業高等専門学校, 一般教育科, 教授 (50302336)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 現象学 / 身体論 / 知覚 / 注意 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、フッサールの身体論に関する遺稿資料を中心に、時間論および倫理学の草稿・講義録に基づいて、いわゆる非自覚的 (無意識的)な身体行為に関する倫理的な研究を目的とする。非自覚的身体行為とは、日常活動において特に自己について意識せずに (それゆえフッサールの表現によれば「匿名的」に) 行動することである。 今年度は、昨年度に引き続きフッサールにおける知覚論を中心に注意機能を分析した。 ヒューマンエラーを起こした際には、そこに注意義務を怠った場合が多々見られる。しかしこうした事態に際して、そこに働いている知覚認識における注意機能については、いわばスポットライトを当てて事態をより明確に理解するといった比喩が前提とされる。そこでフッサールが知覚論におけるスポットライト説をどのように解釈したのか、またその説についての制約をどのように見ていたのかを明らかにし、この比喩がどの程度妥当かを確認した。また認知科学の知見として知られる不注意盲を試金石として、フッサールの知覚論とその注意論が、この事象をも含んだ枠組み・モデルとして妥当するのかを探究した。 このことは、彼の知覚論における注意機能を広く日常生活における事象から読み取ることに結びつけることになり、認識における注意だけではなくあくまでも日常的な行為の中での知覚論を目指すことになる。知覚における注意機能は、意志によってそれをいわばコントロールすることも可能である。しかし現実生活においてはむしろ意識的で自覚的な活動というより、いわば眼差しを向けるという身体機能を伴う関心としての注意に基づき、世界の中での事態に惹かれる行為のなかで生じている。この試みによって、認識としての知覚ではなく、行為の中の知覚とその注意機能のもとそこに介在する(自由)意志の所在をどのように捉えるのかその探究の一端を示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
現在フッサールの注意論から、身体の行為論を読み取る研究を展開しており、一定の成果を出している。しかしながら、さまざまな公務が重なったため進捗状況は遅れ気味になっている。
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Strategy for Future Research Activity |
日常的な不注意から生じるヒューマンエラーとそこで問われる責任の所在について、フッサールの注意論を展開することによって、不注意とされる事象の解明と、その事象における意志の介在・不在を確認して、そこに責任の所在を求める倫理的問題に一定の成果を導くことにする。 またすでに(自由)意志に関する系譜学を古代から中世、近代に至るまで辿ることによって、フッサールにおける倫理学の意志問題に哲学史的な位置づけを与えることを試みているが、それを予備的な考察として、今後フッサールが意志の問題をどのように規定したのかを明らかにして、いわゆる無自覚的な身体行為における自由意志の問題を探究する。
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Causes of Carryover |
(理由) 公務が重なったことが主な理由で、また主な研究課題に関わる周辺分野の研究動向確認に時間を要したため、研究に遅れが生じた。主研究であるフッサール関連書籍、電子ブックの発行が遅れているために未消化分が生じた。 (使用計画) 資料収集および発行が予定されている電子書籍、さらに周辺分野の書籍購入に充てる予定である。また学会等で研究成果を公表するための費用とする予定である。
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