2015 Fiscal Year Research-status Report
『エークナーティー・バーグヴァト』における帰依思想の研究
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15K02040
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
井田 克征 金沢大学, 国際文化資源学研究センター, 客員研究員 (60595437)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 印度哲学 / 宗教学 / マハーラーシュトラ / ヒンドゥー教 / 帰依 / マラーティー語 / 聖者 / ワールカリー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は中世以降のヒンドゥー教においてきわめて重要な位置を占める『バーヴァガタ・プラーナ』に対する中世マラーティー語の注釈書『エークナーティー・バーグヴァト』を取り扱い,16世紀以降のマラーティー語圏における帰依思想の展開を明らかにするものである。研究初年度にあたる本年度は,まずこの長大なテキストの現行刊本にもとづいて,各章ごとのおおまかな概要をまとめた。その結果として,このテキストの7章から10章にかけて帰依思想が集中的に説かれていることが確認された。 八月にはマハーラーシュトラ州・プネー市において現地調査を行い,数点の重要な写本資料を収集した。同時に現地において『エークナーティー・バーグヴァト』を根本聖典とするワールカリー派の寺院などを調査して,このテキストの成立に関わると思われるいくつかの資料を収集した。またプネー市に在住のマラーティー文学,ヒンドゥー思想などを専門とする研究協力者たちと討議を行い,テキスト理解およびワールカリー派の帰依思想に対する理解を深めた。 帰国後はこの『エークナーティー・バーグヴァト』のテキスト校訂と翻訳作業に従事しつつ,同時にこのテキストの著者とされるエークナート・マハーラージの行状記『バクト・ヴィジャヤ』『バクト・リーラームリト』などの資料を読んで,このテキストの著者の社会的な位置づけなどについての理解を深めた。 以上の研究の成果の一部は,「聖者が生まれるとき―大衆ヒンドゥー教のサント崇拝―」(於日本宗教学会第74会学術大会),「ケーシャヴ・ナーヤクの井戸:中世聖者伝におけるダリト像」(於RINDAS第4回研究会)などの研究報告として発表された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現地での写本調査/資料調査は順調に進展している。そして7章から10章にかけて帰依思想を述べる箇所のテキスト校訂/翻訳作業もおおむね順調である。周辺資料等の収集に関しては,現地の書店などの状況が変化しつつあるために思ったほどは進まなかった。ローカルな出版物などについては,来年度以降の課題となる。
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Strategy for Future Research Activity |
二年目以降も,『エークナーティー・バーグヴァト』の主要部分のテキスト校訂と読解が作業の中心となる。今後はこのテキストに加えて,『ジュニャーネーシュワリー』『ガーサー』など初期のワールカリー派の資料を参照して,ワールカリー派の救済論と帰依思想の関係へと考察を進める予定である。さらに研究が進めば,サンスクリットのタントラ文献『ゴーラクシャ・シャタカ』や『シッダシッダーンタ・パッダティ』などとの比較を通じて,ナータ派とワールカリー派の関係の考察も行う予定である。
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Causes of Carryover |
当初予定していた資料の電子入力は,必要とされる語学力及びコンピュータの知識を持つ適切な人物が確保できなかったために行われず,その分の使用額が次年度以降に回されることとなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
ひきつづき適切な人物が確保できない場合には,電子入力に謝金を出すことをやめて,現地調査における資料収集のための費用に回すこととする。
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