2015 Fiscal Year Research-status Report
接続法を中心とするヴェーダ語叙法の研究──文法研究と思想研究の融合を目指して──
Project/Area Number |
15K02042
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
堂山 英次郎 大阪大学, 文学研究科, 准教授 (40346052)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 接続法 / 叙法 / リグヴェーダ |
Outline of Annual Research Achievements |
『リグヴェーダ』における2・3人称の接続法語形について,個々の用例箇所の読解を進めるとともに,その一部をデータ化する作業にも着手した。つまり各語形について,動詞語根(±前接辞),時制幹,人称,数,語尾の種類,態,語根・語幹に備わる意味(複数有り)などの形態論的基本情報と,否定文・肯定文の別,疑問文・平叙文の別,また従属節では条件節,目的節,関係節等の別といった統語論的基本情報,更には韻律上の特徴や,文脈や発言状況といった語用論的要素に関しても細かい区別を設け,データ入力を行った。中心となる接続法の機能については,常に軌道修正可能な形で,伝統的分類法も考慮した上で仮説的な項目設定を行った。まだ機能に関する一般論を導き出すには至っていないが,神話的・思想的背景や語用論的な側面が,予想以上に接続法の文法機能と不可分の関係にあることが鮮明となった。 最も多義的な3人称複数語形の同定作業については,平成26年11月の日本歴史言語学会第3回大会での発表後の議論や意見を踏まえて再検討した。その結果,3人称複数語形については,確実語形の形態的・統語的検討がある程度終わった段階での再検討が相応しいと考えられたため,当初予定していた論文等における発表は見送った。 一方,別の研究の中で,散文の時代に衰退した接続法の意味領域がどのように表されていたのかという問題について考察する機会を得た。これは平成29年度に予定していた考察対象であったが,急遽この研究を,昨年度6~7月にタイのバンコクにて行われた国際サンスクリット学会において発表した。 当初の予定通り,接続法と他の叙法とがまとまりある場面や会話に現れるテキストサンプルの収集と考察も進めた。通常の形式のリグヴェーダ讃歌としては第6巻の数歌篇を,また会話からなる讃歌としては第10巻の3篇(X 10; 95; 108)を選び,詳細な検討を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
テキストサンプルの収集・分析は概ね順調に進んでいるが,2,3人称接続法語形の読解と,特にそのデータ化が予定よりやや遅れている。その要因は2つ考えられる。 一つは,語形一つ一つのデータ化に必要な各種設定項目が未だ完全には定まらず,新しいデータを加える過程で新たに必要となる項目や変更すべき項目を,その都度それまでのデータにも反映させながら進まなければならないことである。しかしながら,より完全な検索用データの構築のためには,こうした随時の軌道修正はやむを得ない。逆にそれにより,設定項目や項目内容は次第に精度を増し,合目的的になりつつある。またこうした作業は,データ量が増えるに従って減っていくと予想されるため,今後も同様の遅延が生じ続ける可能性は低い。 遅延のもう一つの要因は,本来平成29年度に予定していた研究を昨年度一部先取りしたために,データ化等にあてる時間が減少したことである。平成29年度は,散文文献における接続法の衰退に伴って,接続法が担っていた意味領域が他の文法手段によってどのように表されたかを考察する計画であったが,昨年度の別の研究の中で,話し手の強い確信・予想といった心的態度が,modalな意味を持つ副詞またはそれと希求法との組み合わせにより表されていた可能性が浮上した。そのためこの研究を,昨年度6~7月にタイのバンコクにて行われた国際サンスクリット学会において発表し,現在その論文を執筆中である。よって,これは研究の一部前倒しであり,研究計画全体の変更にはあたらない。 以上のように,昨年度の当初計画からすれば個別の作業は若干遅れ気味であるが,研究全体としては大幅な遅れが生じているとは判断されない。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は,初年度にやり残した2,3人称接続の形態論的・統語論的分析とそのデータ化の完遂を目指す。ある程度のデータが蓄積された時点で,接続法の機能を他の叙法の機能との関係の中で更に明確化し分類する作業を始める。そのためにも,まとまった量の叙法語形を含むテキストサンプルの収集・分析は欠かせず,これも今年度,次年度と継続して行なう。特に,神々や詩人による会話からなるリグヴェーダ讃歌のうちで未分析の讃歌について,詳細な読解・分析を行なう。これら「会話讃歌」は比較的文脈や背景が明確であり,かつ話し手の態度が出やすい叙法のモデルケースであり,本叙法研究全体の方向性である文法と内容との一体的理解を鮮明に体現するものと位置付けられる。会話讃歌の研究全体をまとめたものを,研究の中間報告として国内外の学会等で発表することを考えている。 また平成28年度後半にはリグヴェーダの用例検討と並行して,イランのアヴェスタ語に散見される接続法及び他の叙法についての検討も始める。アヴェスタ語はヴェーダ語の文法を基にして理解されるが,ただしインドとは異質の文化を築いたゾロアスター教の思想的背景に十分注意しながら作業を進める。 平成29年度からは,リグヴェーダより後のヴェーダ文献における接続法及び他の叙法の調査にとりかかるが,基本的にはリグヴェーダの調査手法や成果を適用できる。散文は会話文の多さや文脈の明瞭さが卓越している上に,叙法の機能も固定化の度合いを増しているため,より明快な機能分析が可能と予想される。また逆に,接続法が生産性を失う過程に伴い,その機能が何によって肩代わりされたのかという疑問にも光をあてる。なお,その一部については既に昨年度考察を終えている。 以上の予定を適宜軌道修正しながら統合し,最終年度には,接続法を中心とするヴェーダ語叙法の発展史の記述へとつなげる予定である。
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