2016 Fiscal Year Research-status Report
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15K02043
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
片岡 啓 九州大学, 人文科学研究院, 准教授 (60334273)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ジャヤンタ / マンダナ / クマーリラ / 錯誤論 / アポーハ論 / ニヤーヤ / ミーマーンサー |
Outline of Annual Research Achievements |
当初の計画通り,紀元後900年頃のインド哲学における錯誤論を論じたテクストであるジャヤンタ著『論理の花房』の該当箇所前半部を写本に基づき校訂し,出版することができた.成果は,『東洋文化研究所紀要』171号に掲載された(2017年3月).また,インドより新たに入手した写本(先行出版では未参照)をあわせて用いることで,校訂をより精確なものとすることができた. さらに,九州大学において「錯誤論研究会」を開催し,校訂本および和訳を,石村克他の研究者と共に検討する機会を持つことができた(2016年8月).また,錯誤論と密接に関係する意味論について,先行研究の見解を正す論文を『南アジア古典学』11号に掲載した(2016年7月). また,ジャヤンタに後続する著者として重要なスチャリタミシュラの注釈について,自身が校訂した原典に基づいて和訳を『哲学年報』76号に掲載した.また,著者であるジャヤンタの小品である『論理の蕾』について,著者問題を再考する論文を『インド論理学研究』9号に掲載した. 2016年11月には,ケンブリッジ大学において,ジャヤンタの重要なソースとなっているクマーリラの『頌評釈』の研究会に参加した.2017年2月には,インド・ポンディシェリにあるフランス極東学院において,ジャヤンタの錯誤論のソースとなるマンダナミシュラの『梵の論証』の研究会に参加した. 以上,ジャヤンタおよびマンダナミシュラの錯誤論について,意味論・神学との密接な関わりを視野に収めながら,当初の計画を上回る成果を挙げることができた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の主目的は,紀元後900年頃のインド哲学を総覧した大部の著作であるジャヤンタ著『論理の花房』の「錯誤論」を扱った箇所二箇所を,インドより将来した写本を用いて批判校訂することにある.本年度は,当初の目的通り,前半箇所を出版することができた.したがって,当初の目的は十分に果たしたと考える.また,これまで入手困難だった写本を新たにインドより入手することにより,より精確な校訂を世に送ることができた.さらに,九州大学において研究会を開催することで,校訂本とその理解について,精確さに十全を期すことができた. また,錯誤論と密接に関連する概念論については,仏教の意味論との関連を探ることで,その内的連関を新たに明らかにすることができた.これは所期以上の成果である. 同時に,各種の研究会に参加することで,ジャヤンタに先行する著者であるクマーリラ,マンダナ,ウンベーカとの思想史的連関も明らかにしつつある.同時に,後続するスチャリタにも取り組むことで,ジャヤンタを前後で挟み込み,彼の思想史上の位置をより精確に浮き彫りにすることができた. また,ジャヤンタの小品である『論理の蕾』については,著者問題を論じる先行研究が複数存在するが,それについて,これまでの研究視座を正す論文を発表することができたのは,ジャヤンタ研究の副産物と言えよう.
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き,所期の目的であるジャヤンタの「真理論」「錯誤論」を明らかにするために,彼の「錯誤論」の後半箇所の批判校訂に取り組む.既に入手した複数の写本を用いて,新たな再校訂版を出版する予定である.出版媒体としては,前号と同じく『東洋文化研究所紀要』を予定している.また,校訂本に精確さを期するため,他研究者と,原稿検討の機会を持つ予定である. また,関連する重要な著者であるディグナーガ,クマーリラ,マンダナミシュラ,ウンベーカ,スチャリタについても,引き続き,ジャヤンタとの連絡に注意しながら研究を進めていく必要がある.関連文献についても,新たな発見があれば順次,論文の形で発表する.発表媒体としては,『南アジア古典学』および『哲学年報』を予定する. また,仏教の錯誤論である唯識との関わりについても注意を払う必要があるので,関連する文献を読み進める.特に,ジャヤンタ以後のラトナーカラシャーンティとジュニャーナシュリーミトラの唯識理論についても,視野に収めながら研究を進めていく予定である.これにより,仏教の唯識理論がインド哲学において錯誤理論として昇華されていった過程を明らかにすることができるはずである.
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Causes of Carryover |
2017年2月に行ったインド出張旅費が当初予定よりも若干低く抑えられたため,2017年5月のオーストリア出張旅費を見越して,余裕を残した.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
2017年5月末にオーストリアへの出張を新たに予定として組み込んでいる.
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Research Products
(7 results)