2017 Fiscal Year Research-status Report
存在論及び因果論をめぐる仏教徒とジャイナ教徒の対論
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15K02047
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Research Institution | Kyoto Sangyo University |
Principal Investigator |
志賀 浄邦 京都産業大学, 文化学部, 准教授 (60440872)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | アルチャタ / 論証因一滴論注 / スヤードヴァーダ・ラトナーカラ / ヴァーディデーヴァスーリ / 多面性実在論 / Hetubindu / ダルマキールティ |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度の研究テーマは,アルチャタ作『論証因一滴論注』の所説を引用するジャイナ教文献について調査を進めることであった。具体的には,『論証因一滴論注』のパッセージが引用されるジャイナ教文献について,すでに知られているものを含めて調査を進め,そこに見られる平行箇所を『論証因一滴論注』の本文と比較し,異読を記録した。『論証因一滴論注』からの引用が知られているジャイナ教文献としては,『相対論の宝蔵(スヤードヴァーダ・ラトナーカラ)』,『生起等の確立』などがあるが,今年度はこのうち『相対論の宝蔵』における引用について主に考察した。同テキストにおいてアルチャタの見解は,当然ながら,仏教徒による前主張すなわちジャイナ教徒にとっては反論者の見解として紹介されている。アルチャタは,『論証因一滴論注』の中でジャイナ教学説の批判を展開しているのであるが,それがジャイナ教徒の立場から再批判されていることになる。両派の対話を追うことによって,「多面的実在論」に関する論争の後代における展開を一定程度跡づけることができたと考える。この成果については未発表であるが,来年度のジャイナ教研究会の場で発表するべく準備している。また2017年5月には,アメリカのイェール大学において開催された国際ワークショップ「インド哲学における偶然と偶発性」に参加し,「How to deal with future existence: sarvastivada, yogic cognition, and causality (未来の存在の扱い方:三世実有・ヨーガ行者の認識・因果性)」というタイトルで研究発表を行った。これは当該年度の研究テーマと一見無関係に見えるものの,仏教徒の存在論と因果論について考察したものであり,当該研究課題「存在論及び因果論をめぐる仏教徒とジャイナ教徒の対論」全体とは内容的に密接に関連している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
「研究実績の概要」にも述べた通り,今年度の研究テーマは「アルチャタ作『論証因一滴論注』の所説を引用するジャイナ教文献の考察」であったが,年度内に研究成果を十分に公表できなかったという点で「やや遅れている」という評価とした。例えば『相対論の宝蔵(スヤードヴァーダ・ラトナーカラ)』というジャイナ教のテキストにおいて,アルチャタの見解が見られる箇所についてはほぼ特定ができているものの,どのような文脈で現れ,ジャイナ教徒がアルチャタの見解に対してどのような批判を展開しているかについて,十分に明らかにすることができていないという状況にある。それはテキスト自体が難解であったため,当初の予定よりも読解のペースが遅くなってしまったということと,そのことを補うためにテキストの読解にさらなる時間を充てることができなかったからであると考えられる。また研究を進める中で,仏教徒の存在論と因果論に関する知見を深める必要を感じたため,そちらについての研究も同時進行で進めていたということも,遅れの理由と考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
「現在までの進捗状況」を踏まえ,来年度はよりスムーズに当該研究プロジェクトを進めることができるよう努力する所存である。まず研究成果の公表の機会についてであるが,2018年9月もしくは10月に開催される予定のジャイナ教研究会において口頭発表を行う予定となっている。それまでに発表のための準備として,ジャイナ教の文献におけるアルチャタの見解の紹介のされ方と,それに対するジャイナ教徒からの再批判について調査を進める予定である。今年度読む予定のテキストの読解についても,原則的には精読で読み進めていくものの,一定のペースを保てるように配慮したい。またテキストを読解する時間をできるだけ長く確保できるよう努めたい。仏教徒の存在論と因果論に関しても,知見を深めるべく引き続き研究を行う予定であるが,今年度解読を予定しているテキストの原典研究の妨げとならないよう注意したい。研究計画については現時点まで一貫して研究を進めることができているため,当初の通りで変更の必要はないと考えている。
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Research Products
(3 results)