2016 Fiscal Year Research-status Report
学校における子どもの死-非業の死の受容に関する宗教学的研究
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15K02052
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
大村 哲夫 東北大学, 文学研究科, 助教 (30620281)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 子どもの死 / 東日本大震災 / 卒業証書 / 慰霊 / 非業の死 / グリーフ・ケア / 追悼 |
Outline of Annual Research Achievements |
2016年4月:東日本大震災によって、宮城県において死亡または行方不明の幼児児童生徒が所属していた校園95校を対象に、質問紙調査を実施した。主な調査項目は、2011年から2016年の間、死亡児童生徒らが存在した学年の卒業式において、①死亡児童生徒への「卒業証書」授与の有無、②「証書」の書式および授与の形式。③「証書」授与の発案者およびその理由。④過去に授与した事例の有無について、などである。 この調査結果について、2013年4月に実施した調査と併せて分析を行った。両調査を併せると対象校園の72.6%の回答が得られ、デリケートな調査にも関わらず、相当な協力が得られたと考えている。 授与した割合は校種によって差があり、幼稚園では66.7%、小学校では33.3%、中学校では59.1%、高校2.9%、特別支援学校は0%であった。授与した年度は2011年から2016年までに亘っており、犠牲になった子どもが所属していた学年の子どもと一緒に授与されていること、授与の発案は学校側であったこと、授与の理由は「一緒に卒業」させたい、という願いであったことなどが分かった。 これらの結果から、死児への卒業証書授与は、「死児の齢を数える」という民間信仰と重なる心性があることが明らかになった。換言すれば、卒業証書授与は、宗教的活動が禁じられた学校における「慰霊」の意味が含まれ、その行為によって教員・児童生徒・遺族らへの精神的「癒やし」が期待されていることが分かった。 またこうした死児を悼む心性の文化的差異または共通点を探るため、日本と類似した重層的宗教文化環境にあるGuatemalaにおいて調査を始めたところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
宮城県の校園における質問紙調査は、ほぼ所期の目的を達することができた。他県においては協力が得にくい状況もあるが、学校における子どもの死という問題のデリケートさから考えてやむを得ないものと考えている。困難さの原因には、子どもの死についての責任所在の問題や心情的な抵抗の問題が存在すると考えられる。 調査の結果については、その成果の一部を『宗教を心理学するーデータから見えてくる日本人の宗教性』(誠信書房 2016年)に共著として公表した。また印度学宗教学会、The International Congress of Psychology(国際心理学会), 日本宗教学会などで個人またはシンポジウム、パネル発表を行った。 私立大学戦略的研究基盤形成支援事業「地域福祉ネットワークにおける宗教者の可能性」シンポジウムにおいても、招聘に応じ「非業の死と卒業証書」と題して発表し、2017年2月にはその内容を報告集において公表した。また日本心理臨床学会の雑誌『心理臨床の広場』18号(2017年3月)より依頼を受け、「宗教からみる現代人と宗教性ー非合理のなかにある大切なもの」としてその成果の一部を公表した。 以上のように、研究の進捗はおおむね順調であり、成果の公表も積極的に行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度となるため、宗教学や心理学、民俗学の学会等で成果を積極的に発表する。 予備調査を含めた研究成果をまとめて研究論文化し、日本宗教学会の『宗教研究』など学会誌に投稿する。 また広く子どもの死の受容について国内外において調査を進め、文化的な差異と共通点についての知見を得たい。そのフィールドとしては、日本と同様、宗教の「シンクレティズム」などが指摘されているGuatemalaや中国などを考えており、海外の研究者とも協力して進めていくつもりである。 成果は積極的に公表するとともに、「子どもの非業の死」という不幸に対処するさまざまな適応について、臨床的な示唆も得られるよう社会貢献も意識して研究を進めたい。
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Causes of Carryover |
研究はおおむね順調に進捗しているが、さらに研究を拡げるため海外調査を計画したため、物品費の支出を可能な限り抑制した。具体的には機材や図書・資料の借用などの節約を積極的に行ったため、物品費を抑えることができた。 またシンポジウム発表を行った国際学会が、国内(横浜)で開催されたため、予定していた旅費を大いに削減することができた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は、最終年度となるため、海外調査を複数回計画している。また学会発表や論文での発表に加え、出版等の可能性も検討しているため、次年度使用額を含めおおむね計画通り支出する予定である。
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Research Products
(7 results)