2019 Fiscal Year Research-status Report
16-17世紀に書写された古代イラン文献の写本研究
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15K02054
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Research Institution | Shizuoka University of Art and Culture |
Principal Investigator |
青木 健 静岡文化芸術大学, 文化・芸術研究センター, 教授 (50745362)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ゾロアスター教 / ペルシア語写本 / イラン / タジキスタン |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は、以下の3つの海外写本調査研究を想定し、その準備に時間を費やした。 第1に、タジキスタン・ドゥシャンベのタジキスタン国立アカデミーにあるペルシア語写本の価値に注目した。残念ながら、旧社会主義国に於ける写本閲覧とコピーは容易ではないので、タジキスタン・アカデミーから研究者を招聘し、日本国内で入念な打ち合わせを行った。また、タジキスタン国内の写本図書館の状況についても把握に努めた。その結果、主としてパミール高原上の図書館には、なおペルシア語写本調査の余地があると判明した。 第2に、タジキスタン・アカデミー所在の写本と同じ内容と思われる写本が、フランス国立図書館とインド・ハイデラバード図書館に所蔵されていることを突き止めた。その内容を写本カタログベースで探り当てた結果、ハイデラバード写本はタイトルが同じだけで、内容は別であることが判明した。しかし、フランス写本の方は、おそらく一致する写本であると確認した。 第3に、イラン・パールス州の写本図書館に、「パリ写本と同一」とされる写本があることの情報を得た。しかし、ペルシア語の綴りでは、「パリ」と「パールス」が同一になるため、確信は持てなかった。この写本については、別のプロジェクトで並行的に実施している「イラン・ペルシア湾岸での仏教石窟調査」の際に、副次的に調査することで解決しようと考えていた。この目的に即して、研究協力者である橿原考古学研究所の研究者2名と打ち合わせを行った。 以上のように入念な準備作業を行い、2019年度末の春休みに、各海外調査を実施するだけのところまで漕ぎ付けていた。しかし、予期せぬ新型コロナウィルスの蔓延により、全ての研究計画が実施直前の段階で延期を余儀なくされているところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
この研究目的の達成には、①タジキスタンでの写本調査、②イランでの現地調査、③フランス国立図書館での写本調査の3つの海外調査が不可欠だった。この目的に引き絞って、過去4年間に様々な準備を重ねてきたのだが、最終段階に至って、明白な情勢の変化があった。即ち、2019年に入ってから、イランとアメリカの国際関係が極度に悪化し、イラン渡航が望めなくなった。続いて、2020年に入ると、新型コロナウィルスが世界的に蔓延し、ヨーロッパ渡航も無理になった。唯一タジキスタンだけは新型コロナウィルス発生ゼロを記録しているものの、そこまでの渡航手段が無い。こうして、研究の総仕上げをする最終段階で、3つの海外調査全てがキャンセルのやむなきに至り、研究計画は大幅な遅延を余儀なくされている。
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Strategy for Future Research Activity |
基本的に、この研究は、海外の写本図書館での調査をベースとしている。新型コロナウィルスが収束し次第、上記のタジキスタン、フランス、イランの中で、渡航可能となった国から順次訪問することで、研究を前進させたい。しかし、今回の新型コロナウィルスは、人類未知の疫病であって、その収束を正確に見通すことは困難であり、スケジュールは全く立たない状況である。 また、仮にコロナウィルスの収束を見通せない場合、現地の研究者に謝金を御支払いして、写本のコピーを取得する方法がある。文献学上は、研究者が直接写本を確認せず、コピーで済ませるのは邪道である。また、旧社会主義国では、本人と大使館の関係者が出頭してコピーを申請せねばならぬと聞くので、この方法でカバーできる範囲には限界がある。しかし、今回の非常事態に照らして、少しでも研究を前進させる為には、海外渡航費の謝金転用が、最も現実的な手段である。 このような代替手段の実行も不可能な事態は、当然予想される。現地の写本図書館や研究機関自体も閉鎖が相次ぎ、研究自体が成立しない国や地域もあると聞く。場合によっては、科研費執行の更なる延期措置をお願いしたいと思う。
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Causes of Carryover |
2019年度は、本研究の最終年度として、3つの海外写本図書館調査を実施予定であった。その為の準備は、万全な段階まで整えていた。しかし、2020年1月にイランとアメリカの国際関係が緊張して、イラン調査が不可能になり、2020年2月以降は新型コロナウィルスが世界的に蔓延して、タジキスタン調査とフランス調査も相次いで延期を余儀なくされた。明白な情勢の変化による止むを得ない延期である。 既に準備は整っているので、コロナウィルスが収束し、且つイランを巡る国際情勢も安定したら、直ちに海外写本図書館調査を実行したい。全ては、研究者自身の都合ではなく、外的な情勢に懸かっている。
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