2016 Fiscal Year Research-status Report
イスラームの生命倫理における生殖補助医療の総合的研究
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15K02056
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
青柳 かおる 新潟大学, 人文社会・教育科学系, 准教授 (20422496)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | イスラーム / 生命倫理 / 生殖補助医療 / スンナ派 / シーア派 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度もイスラームの生殖補助医療の問題について検討した。第三者の配偶子を用いる体外受精について、スンナ派とシーア派で大きな違いが見られるのだが、その違いが生じる大きな理由は、シーア派はスンナ派よりも法学者の解釈(イジュティハード)の自由が許されていることと、シーア派には一時婚(ムトア婚)という特殊な婚姻制度が存在することである。この制度により、夫の精子と一時婚の妻の卵子による受精卵を体外受精によってつくり、終生婚の妻の子宮に戻すことが可能になる。また夫の精子を一時婚の妻に人工授精することにより、その女性が代理懐胎することが可能になるという。もちろん、このような体外受精や代理出産の解釈は、すべてのシーア派の法学者が認めているわけではない。しかし、スンナ派の法学者は第三者提供の配偶子や代理母に反対であることを考えると、本来は第三者である女性の卵子との体外受精や、本来の妻以外の女性による代理出産が認められるか否かは、スンナ派とシーア派の生殖補助医療において大きな相違点を成している。 生殖補助医療に関するスンナ派とシーア派の見解の比較を行うなかで、私はイスラームの特殊な婚姻制度に強い関心を持った。スンナ派において、シーア派の一時婚と類似した性質をもつ婚姻制度があるとすれば、将来、スンナ派の生殖補助医療の議論に影響を与える可能性がある。実はスンナ派の婚姻制度においても、シーア派の一時婚とは異なるものの、ミスヤール婚とウルフィー婚という特殊な形態があることはあまり広く知られていない。スンナ派とシーア派双方に共通するイスラームの婚姻契約を押さえた上で、スンナ派のミスヤール婚とウルフィー婚、そしてシーア派の一時婚について明らかにし、比較を行った。ファトワー(法的回答)やネットニュースなどを参照し、それらの特殊な婚姻制度をめぐる現代のウラマー(イスラーム法学者)や女性の見解を分析した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
イスラームの生殖補助医療における第三者提供の配偶子の可否について、スンナ派とシーア派の比較を行っているが、双方の違いを生み出す要因の一つである、婚姻制度、婚姻契約について検討することができた。シーア派の一時婚については研究の蓄積が多いものの、スンナ派のミスヤール婚やウルフィー婚についての研究は少ない。先行研究を踏まえた上で、現代の最新の情報を盛り込んだ論文を執筆し、公開講演会で広く報告することができた。またイスラーム思想の基本である預言者ムハンマドの啓示体験に関する論文や、ガザーリーの主著『宗教諸学の再興』に関する一般書の分担執筆も行い、古典イスラーム研究についても業績を広く公開できた。
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Strategy for Future Research Activity |
2016年度の研究を行うなかで、生殖補助医療に関わる問題として一番私が関心を持った課題は、出生前診断である。今後は、イスラーム世界では、出生前診断や着床前診断が許されているのか、また胎児に異常があった場合の中絶の可否や、その基準について検討し、医療関係者の声などについても調査したい。さらに、子どもの地位などの法的問題、第三者提供の配偶子や代理母による子どもの親の確定などの問題、生殖ツーリズムについても検討したい。
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Causes of Carryover |
2016年度は使途の制限のない経費などを使用させていただいたので、予定よりも使用額が少なかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度は、関係する文献収集を行うとともに、研究発表および資料収集、情報交換のための国内外の出張を行う予定である。
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