2018 Fiscal Year Research-status Report
イスラームの生命倫理における生殖補助医療の総合的研究
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15K02056
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
青柳 かおる 新潟大学, 人文社会科学系, 准教授 (20422496)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | イスラーム / 生殖補助医療 / 一時婚 / スンナ派 / シーア派 / ファトワー / 廃棄(ナスフ) |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、イスラームの生殖補助医療の議論を文献学的に明らかにする。その際、スンナ派のみならずシーア派にも比重を置いて、婚姻制度のような思想的背景も踏まえ、イスラームの生殖補助医療の生命倫理を総合的に解明する。 今年度は、とくにスンナ派とシーア派の生殖補助医療に関する相違点の原因の一つとなっているコーラン4章24節の解釈について、両派の論争の経緯や、両派の解釈の違いについて明らかにした。生殖補助医療におけるドナー配偶子を認めるか否かという点において、スンナ派は夫婦間の配偶子しか認めないが、シーア派には第三者が提供するドナー配偶子を認めるウラマー(イスラーム法学者)も存在する。その際、シーア派の一時婚という特殊な婚姻制度がドナー配偶子を認める根拠の一つとなっている。 古典時代から現代までのファトワーを考察すると、シーア派は、コーラン4章24節で述べられている婚姻とは一時婚を指すとする。そして一時婚を禁止したという預言者ムハンマドのハディースによっても、その章句は廃棄(ナスフ)できないとする。一方スンナ派は、4章24節で述べられている婚姻とは通常の終生婚を指すと解釈し、もしその婚姻が一時婚を指すとしても、その章句はほかのコーランの章句によって廃棄されたとしている。また、一時婚を禁止したというムハンマドのハディースなども、スンナ派の一時婚禁止の根拠となっている。 現代のファトワーでは、スンナ派の一般信徒から一時婚の是非を問う質問が寄せられることが多い。回答においては、コーラン4章24節が引用された上で、ムハンマドが一時婚を廃止したというハディースが非常に重視されており,コーランの文言を廃棄すると考えるウラマーもいる。またスンナ派の中のサラフィー主義者の一部には、一時婚はイスラームには存在しないという立場から、シーア派をイスラームとは異なる宗教とみる傾向もあるようである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
生殖補助医療の問題は、生命倫理のみならず婚姻制度、家族観、性、人口問題といった議論とも関連する重要かつ大きなテーマであり、またスンナ派とシーア派で違いがみられる興味深いテーマであるにもかかわらず、まだ世界的に研究の進んでいない分野である。昨年度に引き続き、イスラームの生殖補助医療について、配偶子の組み合わせについて重点的に解明することができた。また今年度は、スンナ派とシーア派の生殖補助医療の違いを生み出している大きな理由の一つである一時婚について、古典文献も読解して深く掘り下げて比較検討することができたことは大きな成果だった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究課題として、1)出生前診断に関する問題、2)生殖ツーリズムの実態、3)不妊夫婦の子どもをめぐる法的な問題、4)イスラームにおける家族のあり方の変容などを解明していく必要がある。この中でも、とくに生命倫理に直結するテーマである1)出生前診断について、今後は集中的に研究していきたい。
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Causes of Carryover |
2018年度は、使途の使用の制限のない経費を使用させていただいたため、予定よりも支出額が少なかった。2019年度は、関連する文献収集を行うともに、研究発表や意見交換を行うために、国内外の出張を行う予定である。
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