2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K02069
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Research Institution | Tohoku Fukushi University |
Principal Investigator |
冨樫 進 東北福祉大学, 教育学部, 講師 (20571532)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 日本 / 古代 / 仏教 / 密教 / 悉曇 / 三国観 |
Outline of Annual Research Achievements |
申請者は、平安時代初期に中国へ留学した最澄・空海、およびその〈後継者〉的存在である円仁・円珍において、異言語間――梵語(悉曇)・漢語・和語――における仏教的真理授受・継承の可否という問題がいかなる翻訳論的議論・実践をもたらしたのかという問題を検討している。その成果は、さまざまな外来思想を柔軟に採り入れることで展開してきた日本思想史の潮流をダイナミズムに把握する上で大きな前提の一つとなる、仏教的世界観の多面的理解へと直結することが予想されている。 平成28年度は、円仁が中国における巡礼行をいかなるかたちで評価・理解していたのかという点を明らかにした。唐における悉曇および密教の三大部(胎蔵・金剛界・蘇悉地界)の受法という業績がクローズアップされる円仁が、本来は天台止観行の行者として師・最澄からも一目置かれるほどの存在であったという事実はややもすると忘れられがちである。「天台請益僧」という入唐時の肩書きをも考慮すれば、円仁が実際に中国で修得してきた上記の諸業績はいずれも本来の使命を逸脱したものであり、その巡礼遍歴は彼自身が予測していなかった数々の紆余曲折の上に成り立ったものであると考えるべきである。特に、密教修学を中心とする首都・長安への遊学は本来の任務を逸脱するのみならず、日・唐両国の朝命に背く危険性を有するものであったことを考慮する際、度重なる変更を強いられた自らの巡礼行に対し円仁自身がいかなる意義づけを行ったのかを、彼の信仰および学的素養に即して明らかにする必要がある。 申請者は巡礼日記『入唐求法巡礼行記』に認められる文殊菩薩との値遇、および〈夢見〉に関わる諸記事の分析を通じて、円仁の思想遍歴(天台止観行→浄土教→密教)が巡礼の変遷、および五臺山で獲得した文殊信仰と密接に関連していることを跡づけるとともに、円仁における文殊信仰生成の過程を動的に把握・理解することに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究プロジェクトの二年目となる平成28年度は、プロジェクトの中心となる円仁の求法巡礼に関する分析が中心となった。この作業は当初の予定になかったものであり、申請時の計画を基準にして考えると「脇道にそれた」ような状態であるともいえる。 しかし、上記研究を遂行・検討する過程において ①, 円仁をはじめ、プロジェクトにおいて研究対象としている各人物の思想形成をいかにダイナミックに捉え得るか。②, 当初計画に挙げていた悉曇に加え、五会念仏を仏教的真理授受・継承の手段――申請者自身によるキーワードでいえば〈ほとけのことば〉――として対象に加えるべきか否か、という重要な問題が新たに浮上してきたことも事実である。 これらの問題を平成29年度以降の研究へとどの程度反映させていくかは今後の検討課題であるが、いずれも本研究プロジェクト(および、それに続くと予想される申請者自身の研究課題)を遂行する上で軽視することのできない問題であることは間違いなく、平成28年度の成果も成果としては決して小さくないものと考える。 上記研究成果については8月に口頭発表を実施し、平成29年7月刊行の学会誌(査読有り)での公表が予定されている。また、平成27年度中に口頭発表を行った成果(2件)についても、一件は平成28年9月刊行の学会誌(査読有り)で既に公表し、もう一件についても平成29年度下半期までの活字化を目指している。 その一方、研究課題の中心をなす円仁・円珍関係の資史料についての具体的な調査などは未だ進展しておらず、できるだけ早い段階での史料調査・整備を行う必要がある。 以上の反省をふまえ、平成29年度はさらなる研究の進展を期する所存である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究方針としては、平成27・28年度中に十分実施することのできなかった史料調査を実現することによって、研究に必要不可欠なテキストの整備を進めると同時に、先行研究の成果をふまえて新たな知見を広範に発信できるようにしたい。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた主な理由としては、備品および資史料購入費用を想定した物品費および史料調査によって生じたデータの整理・入力等を依頼する目的で取得した人件費・謝金に残高が生じたことが挙げられる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
物品費の残高については、平成29年度以降も研究の進展に応じて資史料や消耗品(プリンターのインクカートリッジ等)の買い増しに充当する見込みである。また、人件費・謝金については史料調査の実施後、必要に応じて適正に使用する予定である。 その他、旅費については平成27・28年度同様、国内外の学会・研究会における研究成果の発表・情報収集や史料調査に用いる予定である。
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Research Products
(3 results)